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ノーベル平和賞と核廃絶論、核不拡散論の関係 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年12月13日 12時0分

<ICANのノーベル平和賞受賞に日本政府が「核廃絶のゴールは共有」という見解を示したことは、日本の禁止条約批准に向けた大きな前進>

国連における核兵器禁止条約(核禁条約)の採択を推進したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞しました。この受賞について、日本政府は10月上旬の発表の時点では、何もコメントをしませんでした。それから2カ月を経て、今回12月10日に平和賞の授賞式が行われたわけですが、今回はまず河野外務大臣の談話という形で、

「ノーベル平和賞を受賞したICANが推進した核兵器禁止条約は、日本政府のアプローチとは異なりますが、核廃絶というゴールは共有しています。今回の受賞を契機として、国際社会の核軍縮・不拡散に向けた認識や機運が高まることを喜ばしく思います」

というコメントが出されています。この談話だけですと、外相の個人的な政治信念「だけ」と取られる可能性もあったわけですが、菅官房長官も「日本政府のアプローチとは異なるが、核廃絶というゴールは共有している。国際社会の核軍縮、不拡散に向けた認識や機運が高まることは喜ばしい」と同様の見解を述べたそうですから、日本政府としての公式見解ということはハッキリしました。

これは10月の時点と比較すると大きな進歩だと思います。では、10月から12月にかけて、何があったのでしょうか? 例えばですが、その間に衆院選があったことから政治的な「敵と味方」を区別する必要がなくなったとか、トランプ政権の「イスラエルの首都はエルサレム」という余りに非現実的な宣言を受けて、日本政府としてあらためて外交については独自の信念で対処しなくてはダメだと腹をくくったということもあるのかもしれません。

ですがそれ以上に、日本の世論の中でICANの平和賞受賞、そして授賞式での被爆者の演説を評価する声が高まり、それが政府を動かしたということがあると思います。外相談話でも、官房長官談話でも「授賞式に被爆者の方々が参加されたことは意義深い」という表現がありましたが、これも評価して良いと思います。

では、この問題について、この先に何を進めていったら良いのでしょうか? それは、日本の核禁条約批准ということだと思います。

今回の政府見解の中でも強調されているように、日本政府の方針の中には「核保有国と非核保有国の間の信頼関係」を構築することがありますが、これは唯一の被爆国である日本が、核禁条約と核不拡散条約の接点になること、すなわち先進国に共通の「核不拡散」という大きな国際政治上の課題と、国連と非核保有国による「核兵器の禁止」との間に矛盾がないようにする――その役割を果たすために、核禁条約批准は必要なことだと思います。



もちろん、そこに矛盾があるのは確かです。核禁条約批准国は、核兵器禁止の措置が即時に実施されるよう要求しがちです。そのために、現状で認められた保有国5カ国に対しても「即時廃絶」を強く要求する傾向があります。その際に「現保有国と、現非保有国の間には不平等がある」ということを声高に主張することが良くあります。

ですが、この「現保有国はズルい」という主張は、そのまま北朝鮮などの「核兵器保有を企図している国」の主張に重なってしまうわけです。ですから、喫緊の問題として核不拡散ということに神経を使って外交を行っている側としては、この種の発言に対しては距離を置かざるを得ないことになります。

このように、確かに矛盾はあるのですが、誰かが「核兵器の禁止」という政策と「核拡散の防止」という政策の双方の接点に立って、まさに信頼関係を構築するための「汗をかく」必要があるわけです。それならば、その役目は日本が担うべきではないでしょうか?

核兵器禁止と核不拡散という2つの政策は確かに矛盾します。ですが、そこで双方がいがみ合っていては、核兵器保有を志向する勢力の「思う壺」になりかねません。ここは、日本政府として「理想と現実を併せ呑む」格好で核禁条約を批准する、その上で保有国と非保有国の接点という役割を果たしていくべきだと思います。

ICANなどもそこにいたる日本政府の難しい検討過程を見守り、即時批准をしないのは悪であるかのような批判は慎む、そのような形でまずは日本政府とICANが信頼関係を醸成していくのはどうでしょうか? 今回の外務大臣談話は満点ではありませんが、とりあえず落第ではないとして、ICANの方々などは10月からの前進を評価してみてはどうかと思います。

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