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ヒュッゲな国の「世界一幸せな刑務所」の狙いとは?

ニューズウィーク日本版 2017年12月25日 17時30分

<世界一幸福なヒュッゲの国デンマークでは受刑者まで幸せ!?>

罪を犯した者を新たな人生へと導く「地球上で最も人道的な刑務所」が開設された。デンマーク南東部ファルスター島のストーストレム刑務所は、「再犯率を下げる」をコンセプトに設計された最新の刑務所。広々とした独房(個室)や芝生の生い茂る広場、モダンなキッチンまで備えた刑務所で「贅沢な服役」を終えた囚人の更生に効果があると期待されている。

美術館?大学? いいえ刑務所です

ストーストレム刑務所の外観は一見して刑務所とは思えない。英デイリーメールは、「シンプルなスカンジナビア風の外観を持つ、大学のキャンパスのようだ」と伝えている。

1億ポンド(約151億円)の建設費と5年の歳月をかけて建てられた施設の内部はさらに驚きだ。200人の囚人を収容可能な各独房には大きな窓があり、ベッド、冷蔵庫、22インチのテレビ、読書灯付きの机、収納ダンスが揃う。共有スペースでは他の受刑者と共に料理や世間話を楽しめるという。プライベートが確保されたバスルームまであり、これまでの窮屈で寒々しい刑務所のイメージとは似ても似つかない。

STORSTRØM PRISON by C.F. Møller Architects alternates facade materials between light-colored bricks and a combination of concrete and galvanized steel - all durable materials which weather beautifully and do not need much maintenance: https://t.co/sYiDqD5e4i #ProjectOfTheDay pic.twitter.com/nwb4ZQq8He— Architizer (@Architizer) 2017年12月18日


アメリカの建築情報サイト「The Architect's Newspaper」によると、ストーストレム刑務所は社会復帰に向けたリハビリテーションを重視している。画一的な塀の中での生活で社会的スキルを失わないよう、そして受刑者だけでなくスタッフも快適に過ごせるよう配慮された。

報道によると、ストーストレム刑務所に収容される受刑者のほとんどは暴行罪によるもの。犯罪の再犯率を下げるには、出所後の生活環境に慣れるよう「可能な限り自由」が認められる住環境が重要になるという。もちろん刑務所にはくまなく監視カメラが設置されているが、周囲に広がる田園風景を臨むことのできる住環境は決して悪くはないだろう。



ストーストレム刑務所の設計を手掛けたデンマーク拠点の建築事務所「CFMøller」のデザイナー、マッツ・マンドラップは「再犯率を下げることを狙った」と語っている。これまでの伝統的な非人道的な刑務所ではない。

'Storstrøm Prison' คุกที่ดีที่สุดในโลกของเดนมาร์ก กับแนวคิดที่ไม่ใช่ที่กุมขัง แต่คือพื้นที่ปรับตัวก่อนกลับเข้าสู่สังคม ดูยังไงๆ ก็ไม่เหมือนคุกเลยจริงๆ Cr.dooddot #APthai pic.twitter.com/Wz3hA9PjWn— AP THAI (@AP_Inspire) 2017年12月21日


(教会や祈祷スペースは受刑者とスタッフの共有)


再犯率の低さの秘密はヒュッゲにある!?

マンドラップによれば「(従来の刑務所のように)過酷で刺激の少ない環境が、より多くの再犯者を生んでいる」。これは、統計データからも明らかという。デザインで状況をよくしたいというマンドラップの思いは刑務所の設備からも分かる。受刑者らは教会、食料品店、図書館、祈祷スペースを使用できるし、面会に訪れた子供には専用の遊び場もある。

そもそもデンマークの再犯率は27%で、米国の43%と比べるとはるかに優れた水準を保っている。The Architect's Newspaperは「厳しい罰を与えるよりも、受刑者の更生を支援するというスカンジナビアの伝統に沿って、社会的で実践的な技能を提供する場」を目指したというマンドラップの言葉を伝えている。しかし、こんなに居心地の良さそうな環境だとリピーターが生まれるのではないか、という疑問が浮かぶ。

「世界一幸福な国民」とも言われるデンマーク人の幸せの秘訣「ヒュッゲ」が取り上げられることが多くなってきたが、その定義や概念を説明するのは難しいとされる。そんなヒュッゲブームの火付け役となった『幸せってなんだっけ?――世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年』(鳴海深雪訳、CCCメディアハウス)の著者でイギリス人ジャーナリスト、ヘレン・ラッセルの解釈は「感情的に抑圧されることなく、穏やかに喜びを感じること」だ。ストーストレム刑務所はまさにヒュッゲを具現化した施設と言えそうだ。

【参考記事】「ヒュッゲ」ブームの火付け役が日本人に伝えたい幸せのコツ


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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