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エルサレム首都認定と恫喝外交、暴走トランプを誰も止められない - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2017年12月26日 15時40分

<アメリカのエルサレム首都認定に反対する国連決議に際して、弱小援助国を恫喝までしたトランプ政権。もう共和党にも議会にもチェック機能は期待できない>

トランプ米大統領による「エルサレムをイスラエルの首都として認定」という行動は、まず国連安保理で非難決議が採決され、この時は日本を含む非常任理事国も、そしてアメリカ以外の4つの常任理事国も全てが賛成しました。反対はアメリカだけで、常任理事国の反対は拒否権の発動ということで決議は成立しなかった一方で、アメリカへの同調者は出ませんでした。

ところが、12月21日に開かれた国連総会では、同様の非難決議に対して、
○賛成......128
×反対......9(グアテマラ、ホンジュラス、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、トーゴ、アメリカ)
△棄権......35
という結果となり、決議は可決されましたが、アメリカへの同調者は「反対」と「棄権」を合わせて42カ国(当事国のイスラエルを除く)も出てきています。(UNニュースセンターによる)

では、どうして安保理ではなかった「アメリカへの同調」が出てきたのかというと、この間にトランプ政権が恫喝をした経緯があります。

これはまさに恫喝としか言いようのないもので、まずトランプ大統領自身は、

"All these nations that take our money and then vote against us at the Security Council and they vote against us potentially at the Assembly,"
(アメリカから援助を受けているにも関わらず、安保理で我々に逆らい、総会でもアメリカに反対する姿勢を見せている国々がある)

"They take hundreds of millions of dollars and even billions of dollars and then they vote against us. Well, we're watching those votes."
(連中は、何百万ドル〔何億円〕とか場合によっては、何十億ドル〔何千億円〕という金を受け取っているにも関わらず、我々に逆らうつもりだ。我々は、連中がどう投票するか良く見ておくからな)

"Let them vote against us. We'll save a lot. We don't care,"
(逆らうがいい。こっちは援助が節約できて結構だ。どうぞご自由に)

といった表現、さらにニッキー・ヘイリー国連大使も似たような内容をツイートして、国連加盟国全体に圧力をかけました。



その結果として、例えばウクライナは総会での評決を棄権してアメリカに忠誠を見せていますし、その直後にアメリカから殺傷力の高い武器供与を認められています。ニカラグアに至っては、総会で反対票を投じただけでなく、クリスマスというタイミングに「エルサレムに駐イスラエル大使館を移設する」という発表までしています。

こんな事態はアメリカ外交として異常です。まず、小国の悲哀を「見える化」しながらアメリカの力を見せつけるという方法は、国際社会でのアメリカのプレゼンスを減じるばかりであり、決して強くするものではありません。またどんな親米国家においても反米勢力が存在するわけで、その反米勢力を勢いづかせることにもなります。

特に、中東をはじめとしたイスラム圏では、アメリカが様々に苦労して築いた信頼関係を壊すばかりで、何も産むことはありません。経済的なインパクトは簡単に計算できませんが、ダメージは計り知れないと思います。

問題は、その目的が「内向きパフォーマンス」だとしても、どうしてこのような愚行が可能になっているのかという問題です。2つ指摘できると思います。

1つは、外交当局の組織が穴だらけという問題です。アメリカには、政治任用制度というものがあり、上級管理職以上のポストは政権が任命します。ですから、2017年1月に共和党政権が発足すると、共和党系の外交専門家が国務省の主要ポストに就くはずでした。

ところが、今回に限っては、例えば保守系のある地域のスペシャリストで、オバマ時代にはシンクタンクの研究員などをして「時期を狙っていた」人材が「ポストに就きたがらない」つまり「トランプの無謀な外交に加担したら自分のキャリアに傷がつく」として、距離を置いているケースが多いのだといいます。

反対に、現在主要ポストに就いていたり、代理をやってたりする人材の中には、「今はこの政権と心中するしかない」と考えて、政権の勢いのある限りは「ついて行こう」としている向きもあるようです。

これは国務省ではありませんが、ホワイトハウスの安全保障副補佐官を務めていたディナ・パウエル氏が、12月8日に辞任(実際の離任は年明けとされていますが、すでに失脚というのが常識的な見方)したのも良い例で、彼女が離れることで「歯止めが効かなくなった」こともあると考えられます。

2つ目は議会の姿勢です。本来ならば、ここまで極端な恫喝外交、しかも副作用の大きい政策には、議会の厳しいチェックが入るはずです。ですが、この間の議会は歴史的な減税法案の審議が最優先であり、共和党の穏健派も大統領と共調し、大統領に「意見する」雰囲気ではなかったようです。

また、そもそも「エルサレムをイスラエルの首都とする」という政治的なポーズについては、90年代に議会が可決している話であり、そもそも反対ができなかったということもあるでしょう。1995年の米議会決議について言えば、93年の「オスロ合意」でイスラエル=パレスチナ2国家体制の枠組み合意ができた後、その交渉が停滞する中でアメリカ内の「親イスラエル的な」世論を反映して可決されたものです。その後、クリントン、ブッシュ、オバマの3人の大統領が承認しなかったために法律化されていませんでした。

仮にそうした経緯があったにせよ、この種の稚拙な恫喝外交に利用するとなると、上下両院の外交や軍事のプロとしては「そのまま見過ごす」ことは普通考えられないのですが、タイミング的に大統領に突っ走られたのだと考えられます。

そうこうするうちにアメリカはクリスマス休暇に入って、国内の報道も静かになってしまいました。


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