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平昌五輪を北朝鮮危機打開のきっかけにせよ

ニューズウィーク日本版 2018年1月4日 10時10分

<北朝鮮が五輪妨害のためにテロを行う不安は尽きないが、米韓はむしろスポーツ外交で話し合いの扉を開くべきだ>

87年11月29日、大韓航空機858便がミャンマー(ビルマ)沖上空で爆発し、100人を超す乗客が命を奪われた。米情報機関によれば、翌88年のソウル五輪を妨害しようとする北朝鮮の企てだったという。

18年2月のピョンチャン(平昌)五輪でも同様のことが起きるのか。北朝鮮の核・ミサイル実験をめぐり朝鮮半島情勢は緊迫化しており、米朝は激しい言葉の応酬を繰り広げている。戦争はないまでも、北朝鮮がまた航空機を爆破したり、食品に毒を混ぜたり、爆弾テロ予告をしたりしないかと不安は尽きない。

しかし、韓国、アメリカ、北朝鮮の政府が適切な行動を取れば、これは平和へのチャンスにもなり得る。五輪を話し合いのきっかけに使えばいい。

北朝鮮問題で常に外交が成果を上げてきたと言うつもりはないが、外交以上に有効な方法がなかったことも事実だ。制裁は効果を発揮していないし、破滅的な事態を避けつつ「限定的」な武力行使を行うというのも現実的でない。北朝鮮が韓国に反撃することが予想されるからだ。それに、ミサイル防衛に全幅の信頼は置けず、アメリカも安全とは言い切れない。

トランプ米大統領はティラーソン国務長官の対話路線が気に食わないようだが、北朝鮮とは対話する以外にない。それよりも優れた選択肢がないからだ。

カギを握る米韓合同演習

具体的にはどうすべきなのか。まずアメリカは、五輪とパラリンピックの期間に予定されている米韓合同軍事演習を延期する。北朝鮮は、核・ミサイル実験を停止し、五輪への選手派遣(フィギュアスケートのペアが出場権を獲得していた)を決め、五輪を妨害しないと約束する。

そうすれば、トランプと韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は、五輪の輝かしい歴史とアスリートたちを守るために「大人の対応」をした偉大な政治家として称賛されるだろう。そのような合意は、17年11月に国連総会で採択された五輪停戦決議の趣旨にも沿う。同決議では国連加盟国に対し、平昌五輪とパラリンピックの期間中の敵対行為の自制を求めている。

韓国政府は、それを目指しているように見える。北朝鮮に選手派遣を呼び掛け、アメリカには軍事演習の延期を求めている。これまで北朝鮮は、北朝鮮指導部の「斬首作戦」も視野に入れた軍事演習に反発し続けてきた。予定どおり演習が実施されれば、北朝鮮が五輪に選手を派遣することは考えにくい。



外交はタイミングが全てだ。その点、平昌五輪は絶妙のタイミングで開かれる。17年11月29日のミサイル実験の後、金は「国家核武力の完成」を宣言した。「完成」したということは、米政府が譲歩すれば核・ミサイル計画を縮小する余地があるという意味なのか。話し合いの可能性を探る価値はある。

軍事演習の延期には反対意見もあるだろう。しかし、過去にアメリカは演習を取りやめたことがある。そのときも、抑止力が弱まったり、軍事的な即応体制が揺らいだりはしていない。92年には北朝鮮の核査察受け入れと、94年には北朝鮮の核開発凍結と引き換えに、米韓合同軍事演習を中止している。

米政府は再び、北朝鮮危機のエスカレートに歯止めをかける機会を手にしている。歴史をひもとけば、スポーツが対立国の橋渡しをした例は多い。70年代にニクソン元大統領の訪中に至る米中雪解けのきっかけになった「ピンポン外交」もそうだったし、数十年間も関係が断絶していたアメリカとイランの緊張緩和をもたらした13年の「レスリング外交」もそうだった。

米朝間でも、アメリカの元NBA選手らが北朝鮮を訪問して親善試合を行い、金との面会もしている。これは、米外交官が誰一人成し遂げていないことだ。

北朝鮮危機の平和的な解決に向けて残されている外交上の選択肢は多くない。米政府は五輪という絶好の機会を逃さず、対話への道を切り開くべきだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年1月9日号[年始合併号]掲載>


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トム・コリーナ(プラウシェア財団政策ディレクター)、キャサリン・キロー(同財団研究員)

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