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中国、勝利宣言か──トランプ「五輪期間中、軍事演習ない」

ニューズウィーク日本版 2018年1月5日 17時0分

米韓首脳電話会談で平昌五輪期間中、合同軍事演習はないだろうとトランプが言ったことに関して、中国は「双暫停」が勝ったと速報。昨年末日本は中国に更なる圧力を求めたようだが、情勢分析を間違ってはいないか。

CCTVが速報――勝利宣言のごとく

4日22時36分、中国の中央テレビ局CCTVのクライアント端末に速報が流れた。韓国の文在寅大統領がトランプ大統領と電話会談を行い、平昌冬季五輪期間中に米韓合同軍事演習を実施しないことで合意したというニュースだ。

それによれば、電話会談は22時(中国時間21時)頃から30分間ほど行われ、文在寅大統領が「五輪期間中、米韓合同軍事演習を延期する意向を明らかにしてくれれば、平和五輪になる」と言ったのに対して、トランプ大統領は「文大統領が私に代わって、五輪期間中、軍事演習がないだろうと言ってもかまわない」と答えたという。

これは北朝鮮が平昌冬季五輪に参加する意向を示したことと、板門店における朝韓対話チャンネルを再開したことに対する(アメリカ側の)回答であるとCCTVは報じている。

何よりも注意を引いたのは、これこそは正に中国がこれまで唱えてきた「双暫停」が遂に実現したことの何よりの成果であると、あたかも「勝利宣言」のごとく緊急速報で報じたことである。毎回くり返しになるが、「双暫停」とは「北朝鮮もアメリカも軍事行動を暫定的に停止して、対話のテーブルに着く」という意味。

その後、トランプ大統領が「米国は100%文在寅大統領を支持する」と話したことも報道された。

六ヵ国協議の中国代表、韓国へ

一方、北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる六カ国協議の中国主席代表を務める孔鉉佑外交部副部長(外務次官)が、5日から韓国を訪問し、韓国首席代表の李度勲氏と朝鮮半島情勢について協議することになった。CCTVが報道した。孔鉉佑氏は中国籍朝鮮族で、朝鮮半島問題特別代表を兼務している。

孔鉉佑氏はまた、日米の六ヵ国協議代表とも電話会談したと、CCTVは伝えた。

中国に対北圧力強化を要望してきた日本

安倍首相はかねてより、北朝鮮に対しては「限りなく圧力を強化していく」という方針においてトランプ大統領と「100%共にいる」ことを表明してきたが、北朝鮮に大きな影響力を持っている(と日本が考えている)中国に対して「圧力強化と制裁に協力するよう求める」としてきた。



そのため、昨年末に訪中した自民党の二階幹事長は中国の楊潔チ国務委員(外交担当)と会談し、「中国は必ず北朝鮮に核開発を諦めるように働きかけてくれると、日本国民は信じている」と述べたそうだ。つまり「圧力強化に協力するように」ということである。それに対して楊潔チ氏は、あくまでも「対話と交渉で、平和的な解決を実現したい」と述べるに留めたとのこと。


このとき中国共産党対外聯絡部はすでに、北朝鮮と緊密に連携しながら「平昌冬季五輪に参加し、南北対話を推進して、米韓合同軍事演習をくい止めよ」という指示を出していたはずだ。もし北朝鮮が言うことを聞かなければ、中国は3枚のカードを切る準備があるという恫喝も忘れていなかっただろう。

3枚のカードとは、何度も書いてきたが、たとえば昨年11月20日のコラム「北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側」にあるように、以下の3枚だ。

 カード1:中朝軍事同盟の破棄

 カード2:断油(原油輸出の完全停止。北への「油」の90%は原油)

 カード3:中朝国境線の完全封鎖

中国はこの3枚のカードをちらつかせながら、北朝鮮にとって最も賢明な道は何かを金正恩に迫ってきた。カードは切ってしまえば効力を失う。だから中国はこの日のために、カードを使わずにおいたのである。

それも知らずに、「中国に更なる圧力をかけさせるために、日中友好を重んじて習近平訪日を実現させる」としている安倍内閣の方針は、北朝鮮を取り巻く情勢分析において、必ずしも適切ではないのではないだろうか。

日米が圧力を強化したためと解釈する非現実性

ましていわんや、今回の北朝鮮の方針転換を「日米が圧力を強めたため」と解釈するのは、あまりに非現実的である。中国の周到でしたたかな戦略を見誤ると、日本は又しても中国にやられてしまうことになろう。

なお、5日のCCTVは「平昌五輪期間中、米韓合同軍事演習が行われないことに関する特集番組」を組んだが、今回もまた「日本の憲法改正」に関する特集との抱き合わせで報道した。「安倍首相が又もや北朝鮮危機を持ち出して、それを口実に憲法改正を行なおうとしている」という番組だった。

中国として阻止したいのは「米韓合同軍事演習」であるとともに、(中国が言うところの)「日本の軍国化」である。そのためなら何でもする。それが今回の結果に表れていることから眼を逸らさない方がいいだろう。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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