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ユーロ圏経済の担い手は、ドイツに逆らうポルトガル

ニューズウィーク日本版 2018年1月6日 12時0分

<反緊縮で成功した南欧の財務相が、ユーロ圏財務相会合のトップに就く意味>

ヨーロッパ全体で緊縮経済体制を取るべきだ、というドイツのメルケル首相の信念は揺らいだようだ。ドイツがユーロ圏財務相会合の新議長に強く推したのは、ポルトガルのセンテーノ財務相だったからだ。

同会合はもともと、ユーロ圏の財務相が非公式に話し合う場として設けられたが、現在は国家予算の草案や救済計画までチェックするようになった。組織として透明性に欠ける、非民主的という批判はあるものの、議長はユーロ圏の発展において重要な存在と見なされている。

米ハーバード大学卒でポルトガルの社会党政権を支えるセンテーノは18年1月に政権を離脱し、オランダのデイセルブルム前財務相の後任として財務相会合の議長に就任する。デイセルブルムはここ数年、ドイツと歩調を合わせて、浪費傾向が強い南欧諸国を非難。ユーロ圏の北部と南部の分断を招き、その亀裂は今なお続いている。

センテーノの登場は、そうした流れの方向転換を意味する。ポルトガルは10年からのユーロ危機に際し、ユーロ圏から780億ユーロの緊急融資を受けた。センテーノはそうした国の代表であり、さらに注目すべきなのは、共産主義政党の後押しを受けた左派政権の一員でもあるということだ。ポルトガルの連立政権は北部欧州の債権国と、トロイカ(ECB〔欧州中央銀行〕、EU、IMF)からの緊縮命令に抵抗し、それでも債務危機からの脱出に成功した。

ドイツ色の薄れた未来へ

センテーノを推薦したことがドイツの経済方針の転換の表れであるかどうかはまだ分からない。2年近く前、ユーロ圏きっての緊縮財政派であるドイツのショイブレ財務相(当時)はポルトガルに対し、ユーロ圏の規制に従うことを拒めばポルトガル経済は停滞して追加の国際融資が必要になるとクギを刺した。だが、ポルトガルは警告に従うことを慎重に拒否しながら、ショイブレを含む緊縮財政派から称賛される結果を出した。

つまりポルトガルは、財政危機に苦しむ国がドイツから課された緊縮財政に逆らってもやっていけることを証明してみせた。センテーノは左派政権の財務相だからEUで急進的な政策を進めるはずだ、と考えるのは短絡的だ。彼は新議長として、金融危機を通して重要度を増していった組織における職務を果たし、ユーロ圏諸国の改革の陣頭指揮を執るだろう。



ドイツ色の薄れた経済ガバナンスを行う未来が来るのかもしれない──センテーノもポルトガル政府もそんな可能性の象徴と見なされている。ポルトガルは南欧で先陣を切って債務危機から抜け出した。近年は急速な経済成長を続け、失業率も13年の17.5%から8.5%にまで低下している。

ポルトガル政府は着々と債務を返済する一方で、年金や公務員給与の削減措置を撤回。水道局や鉄道会社などの民営化を停止し、祝日数も元通りにした。さらにトロイカから非難されながらも最低賃金を上げ、増税案を破棄し、貧困世帯への社会保障を増やした。

EU幹部の脅しめいた忠告もあったが、これらの措置によってポルトガルの内需と投資は16年によみがえった。経済成長も安定し、17年9月には国の信用格付けは5年半ぶりに投資適格級に復活。まさに不可能と言われていたことを成し遂げたのだ。

ユーロ圏でも不可能を可能にするのか。センテーノの手腕に注目するのはメルケルだけではないだろう。

From Foreign Policy Magazine


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[2018.1. 9号掲載]
ポール・ホッケノス

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