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完全オーダーメイドのコンドーム革命

ニューズウィーク日本版 2018年1月16日 18時0分

<グローバル市場の基準は大量生産から多品種少量生産へ――「非規模の経済」が寝室の常識を変える?>

自宅で恋人といい雰囲気に。服を脱ぎながら、彼女はスマートフォンに手を伸ばし、彼の股間をパシャリ。「印刷」をクリックすると、クローゼットの中の3Dプリンターからゲル製のコンドームが。ジャストサイズで、真空パックのフランクフルトソーセージみたい。2人の楽しい時間は続く......。

完全な空想の世界というわけでもない。新興のテック企業が先頭に立ち、1920年代にラテックス製コンドームの大量生産が始まって以来の「コンドーム革命」が始まっている。

クラウドコンピューティングやスマホ、人工知能(AI)、3Dプリント技術などのテクノロジーを推進力に、世界経済は根底から変わりつつある。その壮大な流れを、筆者とベンチャーキャピタリストのヘマント・タネジャは来春刊行の共著で「非規模化」と呼んでいる。

20世紀には大量生産技術が経済を支配し、企業は規模の経済を追求してきた。同一の製品をできるだけ多くの人に向けて生産することによって、ビジネスの規模を大きくした。

一方、21世紀は「マス・カスタマイゼーション」の時代。技術の進化によって、個々の顧客に合わせた高度なオーダーメイド生産と、大量生産に近い低価格や効率の維持を両立できるようになった。規模の経済に代わって「非規模の経済」が市場を制する時代は近い。

コンドーム革命は、その格好の例だ。17年10月にワン・コンドームズ(マサチューセッツ州)は、長さや太さなど60種類のサイズを取りそろえたコンドーム「マイワン・パーフェクトフィット」を発売した。

ズボンや靴と同じように、コンドームにもさまざまなサイズがあっていいはずだと、同社は主張する。従来は、基本的に「レギュラー」と「大」の2種類しかなかった(自ら「小」を買う男性はいそうにない)。

選択肢が限られているのは、1つの製造ラインで同じ商品を大量に生産するほうが経済的だからだ。さらに、コンドームは医療機器に分類されているため、規制当局が定める品質基準や検査方法を簡単には変えられないというハードルもある。「高価な機器を投入した検査機関が世界中にある」と、ワンのダビン・ウェデルCEOは語る。

例えば、コンドームに規定の量の水を入れて漏れを確認する検査。サイズが小さいコンドームは品質に問題はなくても、水の量に耐え切れずに破れてしまうだろう。

「(検査は)市場参入の障害だった」と語るウェデルは、数年前から米食品医薬品局(FDA)に働き掛け、さまざまなサイズの製品に対応できる検査方法を模索してきた。



オンデマンド生産工場

一方で、ワンは多様なサイズのコンドームをほぼ自動で製造できる新しい機械を設計した。さらに重要な進歩は、インターネットとクラウド技術により、消費者に直接アクセスできるようになったことだ。

小売店の棚に60種類のサイズを並べることは不可能だろうと、ウェデルは語る。ウォルマートの店内で「自分のサイズ」を測るというのも、かなり難度が高い。ワンのサイトには、自分にぴったりのサイズを選ぶ手順も紹介されている。

コンドーム産業が非規模化を目指す上で、大きなカギを握るのは技術だ。3Dプリントは開発のペースが遅く、家庭用プリンターの実用化はまだ遠い先の話だろう。

一方で、近いうちに大きな飛躍をもたらしそうなのは多品種少量生産システムだ。これなら大規模な製造ラインは必要ない。工場のフロアに3Dプリンターがずらりと並び、オンデマンドでさまざまなサイズのコンドームを生産する光景が目に浮かぶ。

3Dプリンターは大きなスペースを取らないから、1つの企業が各地に小規模の工場を構えることもできそうだ。ドローンを使った配達が実用化すれば、注文から2、3時間後には、自宅の玄関先に「完全オーダーメイド」のコンドームが届くかもしれない。

素材の開発も不可欠だ。ラテックスは3Dプリンターでうまく扱えそうにない。現在、多くの科学者がヒドロゲル製コンドームの開発に取り組んでいる。ヒドロゲルはほとんどが水から成るゲルで、ソフトコンタクトレンズなどに使われている。

グラフェンというナノ炭素素材のコンドームも、英マンチェスター大学などで開発が進んでいる。ヒドロゲルやグラフェンを使えば、3Dプリンターで傷のない丈夫なコンドームを作れるだろう。

ソニーが11月に発売したスマホの新機種「Xperia XZ1」は、最先端の3Dスキャン機能を搭載している。人の顔や物をスキャン撮影すると、アプリが3Dアニメーションを作成。ゲームのアバターとして遊ぶこともできる。

このアプリを少しいじれば、あらゆる臓器の等身大の3D画像を描いて計測することが可能だろう。「正確なサイズ」を送信すれば、よりフィットするコンドームを注文できる。

ぴったりのコンドームがないという事態を、非規模の経済が解決する日も近そうだ。


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[2018.1.16号掲載]
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラム二スト)

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