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2020年のセンター試験改革は何のためなのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年1月18日 15時30分

<2年後の導入が決まっている「大学共通テスト」は、期待されているようなグローバルな視点の育成とか教育水準の底上げにはつながらない>

今年も大学入試の全国共通テスト「センター試験」が実施されました。その一方で、2020年からは新しい「大学入試共通テスト」が導入されることが決まっています。

現在のセンター試験が抱えている様々な問題が、この「新テスト」で改革されるのを期待したいわけです。ですが、現在「大学入試センター」が公表している「大学共通テスト」の内容などを見ると、あまり大きな変化はなさそうです。

例えば、「1月実施」という日程は「変わらない」ということがあります。共通一次の時代から、非常に高い確率で降雪やインフルエンザの流行と重なってきたのは事実であり、毎年批判されていたのですが、全国の高校から「秋の実施ではカリキュラム上間に合わない」とか「部活に影響が出る」という理由で強い反対があり、変えられなかったようです。

では、テストの内容はどうなのかというと、この新しい「大学共通テスト」については、昨年から「プレテスト」というのが始まっています。この「プレテスト」を見てみると、現在の「センター試験」と比較して、大きくは変わっていないことがわかります。例えば、「記述式」が導入されるというのですが、国語と数学の一部に過ぎません。国語の場合は23問がマークシートで、記述式は3問だけです。数学についても、マーク式が45問で記述式は3問となっています。

その記述式ですが、どちらも単純なものです。国語の場合でいえば、自分の語彙を使って自分なりに抽象概念を操作するとか、込み入った事実認識を知的な語彙で表現するというものではありません。数学の場合も、複雑な式の展開を書かせてプロセスを見るのではなく、簡単な論理の言葉での説明を求める程度のものです。

では、問題の全般はどうかというと、確かに出題の材料となっている資料はバラエティに富んでいるし、「読む力」の要求は高まっていると思いました。ですが、個々の設問のレベルは難しくはなっておらず、「より深い思考力」とか「本質的な学び」へと高校生を誘導できるような徹底した改善はされていないようです。

面白いのは数学の問題で、多くの問題では「コンピュータの画面」のようなイラストが出てきて、コンピュータ上で行う作業を紙上で再現したようなビジュアルになっているのです。ですが、試験そのものは依然として関数電卓などの持ち込みは禁止して、旧態依然とした手を使った算術に取り組ませる点で、全く従来と変わっていません。

理科について言えば、相変わらず「物理、化学、生物、地学」の4教科から2教科選択となっており、3教科は選べない一方で、領域という意味では狭さのある地学が依然として1教科の位置を占めていたりします。

これが2020年以降の入試かと思うと、少々ガッカリさせられたのですが、実際の「プレテスト」をよく見てみると「別の問題がある」ことに気づきました。この「大学共通テスト」というのは、現行の「センター試験」とは試験としての目的が違うのではないかという点です。



例えば国語ですが、2020年へ向けた「プレテスト」には、従来はセンター試験の国語の「1問目」に必ず出ていた「抽象的な論説文」の読解問題が消えており、その代わりに「高校生の生徒会活動」に関する様々な資料を読み込む問題が採用されています。

高3の1月には多くの生徒が18歳で、少なくとも選挙権のある有権者になっているのに、「いつまでも子供扱いするのか」という違和感を持ちました。

というのは、現行の「センター試験」の問題というのは、偏差値でいえば55から65ぐらいの学生でキチンと差がつくように設計されているわけです。ですから、かなり勉強熱心な学生を集める大学での選抜や、一次から二次への選抜(足切り)に使えるようになっています。ですが、偏差値で45から55ぐらいのゾーンに関しては、比較的ダンゴ状態になってキメ細かく差を見るのが難しいように思います。

ところがこの新テストでは、「45から55」のゾーンの学生をメインターゲットにしており、その中での学力差や、科目の得意不得意が見えてくるような仕掛けになっている、そう考えると納得ができます。

鳴り物入りで導入される「英語における外部テストとの置き換え」にしても、ガチンコの英語力が試されるTOEFLやIELTSだけでなく、ノンネイティブのコミュニケーション力を評価するTOEICや、今回の「新テスト」に合わせて民間で開発される国内専用の資格試験なども許しているようで、この点でもまさに「45から55」のゾーンにターゲットを絞っているように見えます。

つまり地方の国公立など、「統一テスト」で「しっかり差がつくのを見たい」というニーズに応えるための変更、今回の「新テスト」いや「大学共通テスト」というのはそのための変更だと理解するのが、一番筋が通っているように思います。

そう考えると、授業が間に合わないとか、部活に影響が出るという高校の声に配慮したということも納得ができます。いわゆる受験エリート校は、今回の「新テスト」のメインのターゲットではないということだからです。

つまり、本当のグローバル化とか、最先端の科学技術水準から遅れないための教育ということと、今回の「2020年の入試改革」は別だということです。そう考えると、「ちょっと待て」と言いたくなります。国際化にしても、科学技術の水準にしても、全体の底上げがあって、初めて先端のレベルも上がって行くからです。

そう考えると、高校のカリキュラムも歯を食いしばって全体の底上げをしていかなければなりません。その点から考えると、今回の「新テスト」はホンモノの記述式ではないし、理科は最大2教科だけだし、国語は知的刺激が足りないし、数学の難度も足りないし、国全体の「教育の志」という意味では食い足りないものを感じます。


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