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あのランディがトランプ政権アジア担当要職に──対中戦略が変わる

ニューズウィーク日本版 2018年1月25日 12時0分

1月8日、ランディ・シュライバーが米国防総省アジア担当に任命された。2016年9月20日、「日中戦争時代、毛沢東が日本軍と共謀した事実」を話し合う国際会議を主宰した人物だ。トランプ政権の対中政策が変わる。

シンクタンクProject2049のCEOとして発信

ランディ・シュライバーは共和党のブッシュ政権時代に東アジア太平洋担当の次官補代理を務めた経験があり、2008年にはアジア安全保障などに関する研究を行なうProject 2049 Institute(プロジェクト2049研究所)というシンクタンクを創設している。

ランディ・シュラ-バーの本名はRandall Schriverだが、周りはみんな彼のことを「ランディ」と呼ぶ。ここでも愛称のランディを使わせて頂く。

Project2049は「中国共産党こそが歴史の改ざんを行なっている」という視点を軸に、中国の軍事、領土問題等における覇権主義に対して厳しい抑止政策を主張してきた。

同時に台湾側に立って発信することが多く、ランディは完全な対中強硬派として知られている。

ただ、2005年にアーミテージ・インターナショナルというアジア関連のコンサルタント機関が創設されたときには、5人の発起人の一人となっており、今でも副代表を務めている。

そのアーミテージ氏は、同じ共和党であるにもかかわらず、トランプ大統領の選挙期間中は反トランプ派だったために、思想的にアーミテージ氏と一致しているランディもやはり、従来の共和党保守派であり、トランプ大統領とは距離があった。

それでも昨年10月27日、トランプ大統領はランディをアジア・太平洋の安全保障問題を担う国防次官補に「指名する予定だ」と発言していた。なかなか「予定」が現実化しなかったのだが、12月になって正式に任命し、今年1月8日に連邦議会に通告したようだ。

今年1月19日にトランプ政権における初めての「国家防衛戦略」が発表され、中国とロシアを「戦略的競合相手」と位置付け、特に中国の覇権を警戒する内容が盛り込まれているが、おそらくアジア太平洋の軍事戦略に関して、ランディの経験と知恵を必要としたのではないかと推測される。

毛沢東の真相をめぐる国際会議

2016年9月20日、筆者はランディに呼ばれて、ワシントンD.C.にあるNational Press ClubでProject2049が主宰する国際会議で講演を行なったことがある。テーマは"Mao-zedong――The Man who Conspired with the Japanese Army during the Sino-Japanese War "(毛沢東――日中戦争中、日本軍と共謀した男)だ。



そのときランディは、「歴史を捏造しているのは中国共産党である。嘘と思うなら天安門広場にある博物館に行ってみるといい。歴代の中国共産党指導者の中から、胡耀邦の肖像だけが省いてある」と、冒頭の挨拶で述べた。

この胡耀邦は1972年のスピーチで、「もし中国人民が我が党の真相を知ったならば、人民は必ず立ち上がり、我が政府を転覆させるだろう」と語ったことで有名だ。

ランディは拙著『毛沢東――日本軍と共謀した男』出版に関するVOA(Voice of America)やRFA(Radio Free Asia)の報道を見て、彼が唱えてきた「中共こそが歴史を捏造している」という事実を立証する何よりの証左として、筆者を温かく迎え入れてくれた。

トランプ政権の対中政策が変わる

たしかに影の大統領とまで言われたバノン前主席戦略官は、"Fire and Fury"(『炎と怒り』)でホワイトハウスの内部情報を暴露したことによってトランプ大統領の激しい怒りを買い、大統領への影響力は薄まりはしただろう。しかし世界に対する情報発信力はまだ持っているはずだ。2017年12月21日付のコラム「バノン氏との出会い――中国民主化運動の流れで」に書いたように、バノン氏もまた、「日中戦争時代に毛沢東が日本軍と共謀していた事実」に注目し、筆者を取材した。

そして今、トランプ大統領が「やはりこの人に頼るしかない」と任命したランディもまた、毛沢東に関する真相、すなわち中国共産党が歴史を捏造している事実に注目しているのである。

この事実がトランプ大統領の耳に入るのは、時間の問題だろう。

日本政府は、まさに日中戦争への贖罪意識や諸々の配慮があってか、真実を中国に突き付ける勇気は持ち合わせていない。自民党や公明党の中には、むしろ中国に対して迎合的な議員さえいる。そういった議員への配慮からか、「毛沢東――日本軍と共謀した男」は、まるで禁句のような扱いになっている様相を呈しているくらいだ。

しかし、あのトランプ大統領がランディを政権内に入れた以上、トランプ政権の対中政策は必ず変わっていく。

これまで背後でキッシンジャーがシナリオを描いてきた「習近平-トランプ」の蜜月から抜け出し、やがて「中国共産党が強大化したのは、日中戦争時代に国家と中国人民を裏切って、日本軍と共謀していたからだ。中国には、日本に歴史カードを突き付ける資格はない」とツイートする日が来るかもしれない。アメリカを凌駕するであろう国が現れるなんて、トランプには許せないことだろうから。



現にアメリカはここに来て突然、国防戦略や貿易問題において、中国に対して敵対的になり、中国を苛立たせている。中国の怒りは尋常ではない。(これに関して書こう書こうと思いながら、なかなか時間が取れずに怠慢としていることを、お許し願いたい。追ってまた考察を公表させていただくつもりである。)

必ず変わる中国の対日外交

アメリカが変われば、必ず日本が変わる。

そして何よりも重要なのは、アメリカの対中外交が強硬に転じれば、中国は必ず、自ら日本との「友好」を求めてくるということである。

日本は中国に対して、韓国のような土下座外交をする必要はない。中国が自ら求めてくるまで待たないと、中国の良いようにされてしまって、日本の国益を損ねることは明らかだ。

韓国が今、北朝鮮のコントロール下に置かれたような形になり、平昌冬季五輪参加をめぐって、まるで朝鮮半島の運転席に北朝鮮が座っているような形勢になっている。

日本は、中国とそのような関係にだけはなってはならない。

習近平国家主席の来日を必死で懇願するような関係になってはならないのである。その懇願が実現した場合、懇願した側が必ず敗者となることに注目しなくてはならない。

日本はもっと毅然と、戦略的であるべきだ。

安倍政権には焦らないでほしいと強く望む。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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