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2017年に輪を掛けた混乱がベネズエラを待つ

ニューズウィーク日本版 2018年1月26日 15時15分

<米トランプ政権が外交圧力を強めたことに加え、中南米の政治地図の変化が命取りに?>

ベネズエラのマドゥロ政権の17年は、食料暴動の弾圧で終わった。原因はクリスマスを祝う郷土料理に欠かせない豚肉の輸入量の不足。政府が鎮圧に乗り出し、クリスマスイブに妊婦が治安部隊に射殺された。

18年、ベネズエラ情勢はさらに悪化するだろう。既に食料品や日用品の略奪が横行している。17年のインフレ率は世界最悪の2616%といわれるが、18年はさらに上昇しそうだ。経済の頼みの綱である石油生産は、過去29年で最低水準に落ち込んだ。

国が崩壊すると思えるニュースも、毎日流れている。99~13年に大統領として強権を振るったチャベスが進めた「チャビスモ(チャベス主義)」と呼ばれるポピュリズムと個人崇拝を柱にした政治を引きずるベネズエラは、転覆が確実視される大きな船のようだ。チャベスの後を継いだマドゥロ政権の5年間は、破綻の序章に見える。

そこへ18年は、新しい要素が2つ加わる。1つは米トランプ政権が外交圧力を強めていること、もう1つは中南米諸国の政治的変化だ。

トランプは17年2月、ベネズエラの政治犯レオポルド・ロペスの妻をホワイトハウスに招き、彼の釈放を呼び掛けた。オバマ前政権のように消極的な姿勢は取らないという意思の表れだ。

実際、人権侵害や汚職、麻薬取引などに関与した個人を狙い撃ちする制裁を相当に強化している。これまで大統領と副大統領も含めた40人以上の政府関係者が制裁の対象となった。

17年8月には、ベネズエラ国債とベネズエラ国営石油公社の社債の新規取引を米金融機関に禁じた。マドゥロ政権の資金源を断つための強硬策だ。ムニューシン米財務長官は「自国民の懐を借りた大規模な経済的略奪のためにマドゥロがアメリカの金融市場を利用するのはもはや不可能だ」と語った。

軍は分裂、国庫も底突く

18年1月には新たに4人のベネズエラ軍高官を制裁対象に指定し、軍部への締め付けを強化する姿勢を見せた。軍部はここ数年、キューバの例に倣って国営企業の運営に深く関与し、貧弱な経済から利益をひねり出している。

アメリカは制裁を通じて軍内部に亀裂を生む戦略に出た。軍上層部は政権に忠実な特権階級だが、他の軍人は一般市民と同じく生活苦にさらされている。数カ月前から、軍内の士気の低下が取り沙汰され始めた。兵士が上官の命令に従わなくなれば、政権の支柱が失われる。



マドゥロ政権は中南米諸国からも支持を得にくくなっている。中南米では強権政治から、現実的で市場重視の政策への転換が進んでいる。15年にアルゼンチンでマクリ政権が誕生し、16年にペルーでクチンスキ大統領が就任。チリでは17年末、ピニェラ大統領が返り咲いた(前回は10~14年に政権を率いた)。

チャビスモのような過激なイデオロギーは見向きもされない。18年はブラジル、コロンビア、コスタリカ、メキシコ、パラグアイで大統領選が予定され、政治の変動はさらに進みそうだ。

ベネズエラに対する経済制裁と、外交的孤立を深める政策は続くだろう。しかしチャビスモも逆風の中で生き残ってきたし、反対派の国外追放などの政策が取られれば、政権が倒れるとは安易に予想できない。

それでも18年は、明らかに政府が劣勢だ。国庫が底を突いたのか、政府はダイヤや金で輸入代金を決済するとまで言いだした。粘り強いチャビスモも、ついに息絶えるかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

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[2018.1.30号掲載]
ホセ・R・カルデナス

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