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ヘーゲル元米国防長官「北朝鮮への先制攻撃は無謀。日本も大惨事を免れない」

ニューズウィーク日本版 2018年2月1日 15時37分

<駐韓米大使の有力候補だったビクター・チャが指名候補から外されたのは、先制攻撃に反対だったためと言われる。ヘーゲルもそれはトランプの「たわ言」と警告する>

トランプ政権が検討中と伝えられる「ブラッディ・ノーズ(血だらけの鼻)」作戦は、北朝鮮の核関連施設をピンポイントで先制攻撃する軍事作戦。北朝鮮の指導者・金正恩(キム・ジョンウン)の顔面に一発お見舞いして、アメリカの軍事的優位を思い知らせることを目的としている。

共和党の政治家でオバマ政権下で国防長官を務めたチャック・ヘーゲルは米軍情報誌ミリタリー・タイムズのインタビューで、この作戦を「無謀な賭け」と呼び、トランプの「たわ言と虚勢」のために何百万もの人命が失われると警告した。

「ちょっと考えれば分かる。金正恩が報復しないという前提で北朝鮮に攻撃を仕掛けるのは無謀な賭けだ。私なら乗らない」

北朝鮮を攻撃すれば、「韓国では文字どおり何百万人もの死者が出る。何万人もの在韓アメリカ人も死ぬ」と、ヘーゲルは指摘した。「(南北の軍事境界線)沿いに3万人の米兵が駐留しており、韓国にはそのほかにも多数のアメリカ人がいる。おそらく日本も大惨事を免れないだろう」

報道によれば、トランプ政権はかなり前からブラッディ・ノーズ作戦の実施を選択肢の1つとして検討している。空席になっている駐韓米大使の有力候補だったビクター・チャが1月30日、指名候補から外されたのも、先制攻撃に批判的なためとみられている。

韓国は日本より守られていない

朝鮮半島問題の専門家であるチャは米紙ワシントン・ポストに寄稿した論説で、米軍が先制攻撃を行った場合、「日本にいるアメリカ人は米軍のミサイル防衛に守られるかもしれないが、何百万人もの韓国人は言うまでもなく、韓国にいるアメリカ人」が犠牲になると警告した。「北朝鮮の一斉砲撃に対し(応射するのがせいぜいで、在日米軍が保有するような)防衛システムは韓国にはない」

チャはさらにこう続けている。「はっきり言おう。アメリカが軍事力を見せつければ、抑えの利かない狂った独裁者が頭を冷やして服従するなどと大統領が考えるなら、ピッツバーグかシンシナティのような中規模都市の人口に匹敵するに在韓アメリカ人が全滅するだろう」

米議会調査局の昨年11月の発表もチャの主張を裏づけている。それによると、米朝の軍事衝突が起きれば、核兵器が使用されない場合でも、最初の数日間で30万人の死者が出る可能性がある。

ヘーゲルは北朝鮮に対するトランプの態度にも苦言を呈した。金正恩がいつでも「核のボタン」を押せると脅しをかけると、トランプが「こっちのボタンのほうが大きい」とツイートするなど、危うい挑発合戦が事態を悪化させているというのだ。韓国の対話路線を見習って、緊張を煽るのではなく「減らす」努力をすべきだと、ヘーゲルは言う。



韓国と北朝鮮は今年1月初め、ほぼ2年ぶりに協議を再開。2月9日に開幕する平晶(ピョンチャン)冬季五輪への北朝鮮の参加が正式に決まり、女子アイスホッケーで南北合同チームが結成されることにもなった。

ヘーゲルは南北対話の進展を評価しているようで、トランプ政権も対話ムードを醸成すべきだと訴えた。「関与することは、降伏することでも、丸め込まれることでもない。大国は関与し、対話をする。大国は責任を持つ。それが北朝鮮に対してわれわれが成すべきことだ」

トランプ政権は、北朝鮮の核保有は断じて容認できず、北朝鮮が核開発を凍結しない限り対話には応じないと明言している。

トランプは30日に行った一般教書演説でも北朝鮮の核の脅威を強調。「北朝鮮の残酷な独裁体制ほど全面的かつ暴力的に市民を抑圧してきた体制はない」と述べ、こう警告した。「北朝鮮の見境ない核ミサイル開発で、非常に近い将来にアメリカ本土に脅威が及ぶ危険性がある。それを防ぐために、われわれは最大限の圧力をかける作戦行動を実施している」


ジョン・ハルティワンガー

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