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仮想通貨バブルの崩壊で、腐ったリンゴを取り除け

ニューズウィーク日本版 2018年2月22日 17時20分

<一攫千金を狙った人にとっては悪夢のシナリオが展開するが、ブロックチェーン技術の成熟には必要な試練だ>

ビットコイン相場の大波乱を見て、仮想通貨バブル崩壊との声も聞かれる。そこまで言うのは早計だが、今年上半期に価格調整が進む可能性は高い。

一部の仮想通貨の相場は引き続き上昇するだろう。仮想通貨を支えるブロックチェーンは中央銀行と違って、価格暴騰を制御できないからだ。問題は膨れ上がったバブルがついにはじけたとき。仮想通貨の保有者にとっては悪夢のような事態が待ち受けている。

よく知られているように、ブロックチェーンは大量の取引を迅速に処理できない。ビットコインは1秒にせいぜい数件の取引しか処理できず、ビザカードのシステムの処理速度(1秒に約2万4000件)に遠く及ばない。

取引量が多くなると、何時間、時には何日間も取引所のサーバーがダウンすることもある。仮想通貨が値下がりして売りが殺到すると、ブロックチェーンに大きな負荷がかかり取引所が機能停止に陥りかねない。

機能停止を免れても、大量の売り注文をさばくにはかなりの時間がかかる。投資家が下落し始めた仮想通貨を売ろうにも、「停止中」のステータスのまま延々と待たされ、その間にどんどん価格が下がっていく......まさに悪夢だ。

投資家にとっての悪夢の状況は、仮想通貨にとっては大きな転換点になり得る。取引環境が未成熟もしくは脆弱なため、多くの市民が巨額の損失を被れば、当然ながら規制当局が介入することになる。

その瞬間からブロックチェーンと仮想通貨を取り巻く状況は大きく変わる。起業家と投資家はブロックチェーンの未来を見据えた冷静な判断を迫られる。この技術が今後どう成長するかは彼らの決断にかかっている。

悪質な事業者が淘汰される

公的管理は仮想通貨が初めて直面する大きな試練だ。ブロックチェーンは中央政府や大企業の支配に対する反逆だという見方もあるが、この技術が広く社会に受け入れられ、活用されるには、政府の支援が不可欠だろう。

ブロックチェーン技術が成熟し、広く活用されるための最も確実な近道は、社会の既存の枠組みの中で機能し、既に構築された仕組みを土台に、それを改善する役割を果たすこと。そのためには仮想通貨のコミュニティーは既存のプレーヤーと協力する必要がある。



成熟したブロックチェーン技術が近い将来どう活用されるか、ビジョンを示すことも大事だ。メディアが仮想通貨バブルをはやし立てるせいで、ブロックチェーン関連のベンチャーまで一時的なブームと思われている節がある。

悪質な事業者がいるのは否めないが、この技術は多くの分野に建設的な影響力をもたらし得る。価値を提供し、よりよい社会をつくるこの技術の潜在的な可能性を引き出せば、ブロックチェーン新時代の幕が開くだろう。

腐ったリンゴは取り除かなければならない。悪質な業者は仮想通貨の不確実性とアマチュア投資家の値上がり期待に付け込んで荒稼ぎしてきた。彼らの詐欺行為が大々的に報道されたせいで、ブロックチェーン事業にはいかがわしいイメージが付きまとっている。

バブル崩壊は一獲千金を狙って仮想通貨を買った人にとっては悪夢にほかならないが、悪質な事業者が淘汰され、信頼できるプレーヤーが残る点で、長期的には業界にプラスになる。価格急落に懲りた市場は仮想通貨への投資でより慎重に選択眼を働かせるようになり、結果的に業界全体の透明性が高まり、業界慣行が改善されるだろう。

仮想通貨バブルが崩壊するとき、ブロックチェーンは岐路に立たされる。技術的に成熟して、社会に貢献するか、一時のブームで終わるか。前者の道をたどると、私は期待している。

<本誌2018年2月13日号「特集:日本人が知らない 仮想通貨の闇」から転載>

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マーシャル・スワット(ブロックチェーン技術と金融取引の専門家、起業家)

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