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お騒がせベルルスコーニが、3月総選挙で返り咲き?

ニューズウィーク日本版 2018年2月26日 11時10分

<数々のスキャンダルを起こしてきたベルルスコーニが穏健派に「変身」して再び政界で存在感を放つ>

世は高齢化の時代。日本では「元気で100歳」が目標とされ、東南アジアのマレーシアでは92歳のマハティール・モハマド元首相が次の総選挙で、久々の首相復帰を目指している。早朝からツイッターで吠えまくるアメリカのドナルド・トランプ大統領も元気過ぎる71歳。ならば81歳のイタリア人シルビオ・ベルルスコーニが今春、何度目かの首相に返り咲いても驚くには当たらないのかもしれない。

実業界と政界で何度も墓穴を掘り、もはや「過去の人」と言われて久しいベルルスコーニの陣営が、3月4日に予定されるイタリア総選挙で第1党になる(そしてご本人が首相に指名される)可能性が浮上している。常識的には信じ難い話だが、今の時代に常識が通用しないことはトランプが証明済みだ。

新聞やテレビの事業で財を成し、メディアを支配し、テレビ映えのするキャラクターで劇場型の政治を仕切り、その時々の国民心理を敏感に察知し、現状に不満な人々の心を反左翼・反エリートの主張でくすぐる。そんなベルルスコーニは現代版ポピュリズムの先駆者だ。

1994年に政界に身を投じ、一気に首相の座をつかみ取って以来、スキャンダルで降板しては選挙で復活するシナリオを繰り返し演じてきた。従来は中道右派を標榜していたが、今は穏健派を気取っている。08年の世界金融危機後はEUと激しく対立したが、今はEUに寄り添う姿勢を見せる。

ライバルは「五つ星運動」

「変わり身の早さ」は彼の身上だ。年輪を重ねて人間が円くなったとみる向きもあるが、そうではないだろう。ここ数年の難民危機でイタリア社会(と政界)の空気が変わったこと――自分以上のポピュリストが台頭し、社会の分断が一段と進んだこと――に、いち早く気付いただけのことだ。

そして11年に退陣を強いられるきっかけとなった未成年者との淫行・買春疑惑の、みそぎは済んだ(どんなにアメリカでセクハラ男追放の動きが高まろうと、イタリアは違う)と思っている節もある。

ベルルスコーニが自らの政党を立ち上げ、右派の地域政党・北部同盟と組んで政権を奪取した90年代半ばには、彼こそが真正ポピュリストだった。今は違う。既成政党は四分五裂で、国民の政治不信・エリート不信に便乗する勢力が複数ある。なかでも勢いのあるのが「五つ星運動」だ。

コメディアン出身のベッペ・グリッロが率いる五つ星運動はインターネットを活用して支持基盤を広げ、とりわけ従来は政治に無関心だった(あるいは政治に絶望していた)若者たちの動員に成功した。そして「こんな政治家どもにまかせておけない」と思う多くの有権者を奮い立たせ、13年の総選挙では上下両院で驚異の躍進を見せた。ローマやトリノなどの主要都市でも、五つ星の新人候補が既存政党の有力候補に競り勝った。



ベルルスコーニがテレビを活用して権力の座に上り詰めたとすれば、五つ星はインターネットを使って政権奪取を目指す。その主張は過去のベルルスコーニよりも過激で、既存の政治を徹底して拒否する。自分たちは左派でも右派でもないと主張し、既存政党との連携は断固として拒んでいる。

そしてもちろん、五つ星はEU嫌いだ。総選挙を意識して、今はやや穏健な姿勢を見せてもいるが、本質は変わらない。ベルルスコーニはこの点を突き、五つ星運動が政権を取ったら大変だ、それを阻止できるのは自分だけだと触れ回っている。

今回のベルルスコーニは中道右派勢力の緩やかな連合を率いて、成熟した穏健な指導者のイメージを打ち出している。なにしろこの四半世紀で3度も政権を担った男、彼がイタリア政界で最も「なじみの」顔であることは間違いない。しかも自分より過激な左右の新興勢力が台頭してきた結果、今のベルルスコーニの立ち位置は相対的に中道と言えなくもない。

ちなみに、今のイタリア政界で最右翼に位置するのは北部同盟を率いるマッテオ・サルビニで、彼は極端な移民・難民排斥を唱えている。

それでも政治は変わらず

地中海に面するイタリアが、北アフリカから海を渡ってくる大量の難民の上陸地点となってきたのは事実だ。難民受け入れの負担は重く、国民の間には不満がたまっているから、北部同盟の主張は受け入れられやすい。

それに、この国ではムソリーニ以来のファシズムが完全に死に絶えてはいない。ベルルスコーニ自身も、90年代には極右のネオ・ファシスト勢力と手を携えていた。そんな彼が、今は極右と手を切ることで中道派の支持を得ようとしている。

ベルルスコーニは今回も、インターネットよりテレビを通じて自分を売り込もうとしている(ツイッターも始めたが、あまり得意ではないようだ)。そうすれば昔とは違う自分の姿を見せられる、あるいは昔のことは忘れてもらえると信じているらしい。



そして実際、現時点の世論調査ではベルルスコーニ率いるフォルツァ・イタリア中心の中道右派連合は支持率でトップに立っている。もちろん、彼がすぐに首相に就任する可能性は(形式的な立場である大統領の座に就く可能性でさえ)低い。なにしろ敵が多過ぎるし、いくつかの訴訟も抱えているからだ。

ベルルスコーニ率いる連合が選挙で第1党になる可能性はあるが、単独過半数の議席獲得は不可能に近い。ヨーロッパではもともと連立政権が珍しくないし、イギリスの二大政党制も崩壊寸前だ。従って、ベルルスコーニも中道左派の一部を取り込んで連立政権の樹立を模索せざるを得ない。

もとより、ベルルスコーニは真正の穏健派ではない。この男はいつでも、有権者の気分に合わせて自分の主張を変化させてきた。今回の選挙公約にしても、長く続く緊縮財政や国営企業の民営化、歳出削減と人員削減にうんざりした国民の不満を吸い上げただけのものだ。

そして彼には、そんな公約を実行に移す能力も意欲もない。これまでも、公約を実現したことは一度もない。

しかし、そんなことはどうでもいい。ベルルスコーニにとって、そしておそらくイタリアの大半の政治家にとって、大事なのは自分が少しでも長く権力の座にとどまること。そしてその間に私腹を肥やすことだ。そのために必要だから、空疎な公約を掲げて選挙をやり、政権を奪い合う。

不幸にして、少なくともこの点に関しては、イタリアの政治家たちは長年にわたり、極めて有能だった。今度の選挙も、たぶん例外ではないだろう。

From Foreign Policy Magazine

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[2018.2.27号掲載]
ジョン・フット

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