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クロヒョウ食べて逮捕のタイ建設会社社長が、ミャンマー原生林に道路建設

ニューズウィーク日本版 2018年3月8日 14時31分

<東南アジア有数の原生林を破壊する道路建設を計画した建設会社社長が、保護動物を密漁して捕まっていたことがわかり、反対派はカンカン>

タイ最大手の総合建設会社「イタリア・タイ・デベロップメント(ITD)」がタイ西部とミャンマー南部を結ぶ高速道路建設計画を発表した。ところがこの高速道路の建設予定地に大規模な原生林地帯があることから、自然破壊につながるとして3月4日にタイの首都バンコクを中心に建設計画反対のデモが行われた。

反対派の人々は単にミャンマーの森林破壊だけでなく、建設を進めるITDの社長が2月にタイ国内の野生保護区で野生動物を違法に密猟した容疑で逮捕されたことも取り上げ、自然破壊、環境破壊、動物密猟の「張本人」と批判、計画の撤廃を求めている。

東南アジア有数の原生林に高速道路計画

タイ国内の報道などによると、高速道路建設計画は、タイ西部とミャンマー南部のダウェイ経済特区を結ぶ全長約150キロの道路で片側2車線を予定しているという。ところがこの道路建設ルートはミャンマー国内のタニンタリー管区の原生林地帯を貫くことがわかった。同原生林地帯はヒョウ、アジア象、トラ、テミンクネコなどの希少動物が生息するアジアに残る広大な原生林の一つとして知られているところだ。

豪ABC放送は世界自然保護基金(WWF)の活動家の話として「この原生林地帯は東南アジアでも1、2を争う貴重な原生林で、そこを開発することは単にそこに生息する野生動物の種類、生態を乱すだけではなく、タイの国境地帯まで繋がる森林全体のエコシステムを破壊する可能性がある」との警告を伝えている。

建設会社社長は自然破壊、密猟の元凶

さらに開発・建設を進めるITD社のプレムチャイ・カンナスート社長というのが、タイでは建設王と呼ばれる富豪だが、2月に野生保護動物を密猟した容疑で逮捕されていたことが明らかになり、反対派をますます怒らせている。



タイ西部カンチャナブリ県のトゥンヤイ・ナレースワン野生保護区で2月3日、キャンプ禁止区域にITD社の社員3人といたプレムチャイ社長を保護区係員が発見、検査したところ、猟が禁じられている希少保護動物のクロヒョウ、キジの一種ミヤマハッカン、ホエジカの死体やクロヒョウの尾のスープを所持しているのを発見した。さらに違法なライフル3丁、銃弾143発を所持していたため、4日に違法狩猟、保護動物の遺骸不法所持などの容疑で逮捕した。その後同社長の自宅を捜索したところ40丁の銃を発見押収したものの、6日には保釈金15万バーツ(約51万円)を支払ってプレムチャイ社長は保釈された。



その後一時同社長の消息が途絶え、「海外逃亡説」が流れたが、ITD社は「国内の建設現場を視察していただけだ」と海外逃亡を否定している。

ネットにアップされた逮捕時の画像には、テントの前で警察官に囲まれたプレムチャイ社長、動物の皮、クロヒョウの遺体、スコープ付きのライフル銃などが写っている。

クロヒョウの漫画、イラストで批判

タイ国内では、密猟しながら保釈金で釈放され、容疑者の身分なのに高速道路建設計画を発表するなど、富裕層に甘い治安、司法当局を皮肉って街中に「クロヒョウ」の落書きやインターネットにイラストや漫画が書き込まれるケースが増えている。

タイ市内では落書きを当局が発見しては即座に消しているが、そのそばから新たに落書きされるなど、国民のプレムチャイ社長と警察に対する不満がクロヒョウの形になって爆発しているといえる。

ミャンマー側も高速道路建設計画自体はダウェイ経済特区の発展に欠かせないとの立場から反対はしていないものの、プレムチャイ社長の関係する建設会社には難色を示している。豪ABC放送は「タイの法律を守れない人物が外国であるミャンマーの法律を遵守するとは思えない。環境破壊や野生動物密猟の実績のあるITD社を今後はブラックリストに載せるべきだ」というミャンマーの権利擁護団体の代表の声を報じている。

今後の焦点は、逮捕容疑の裁判が公正に開かれて法の裁きをプレムチャイ社長が受けるかどうか、高速道路計画が当初の予定通りにITD社が請け負って行われるのかどうかの2点に絞られているが、タイマスコミの間では、裁判はうやむやになり、高速道路は予定通り、と悲観的な見方が有力だ。


[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

大塚智彦(PanAsiaNews)

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