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就職氷河期世代「ロスジェネ」が日本の人口動態に与えたインパクト

ニューズウィーク日本版 2018年3月29日 15時45分

<現在30代後半から40代前半に達したロスジェネ世代から子ども世代への人口再生産率は7割以下にとどまっている>

先週の記事「就職氷河期にキャリアを奪われた『ロスジェネ』の悲劇」では、90年代以降の大卒者の就職率推移を見たが、世紀の変わり目に谷がある「V字」型になっている。最近の就職率は9割近いが、1999~2004年では7割を切っていた。この時期の卒業生が、いわゆる「ロストジェネレーション」だ。

新卒至上主義がまだ根強い日本では、その後の挽回は難しく、このロスジェネ世代は様々な不利益を被っている。非正規雇用に留め置かれ、結婚・出産に踏み切れていない人も多い。

それは人口統計にも表れている。上記の時期に大学を出たロスジェネは1976~81年生まれで、2016年では35~40歳になっている。数でいうと993万人だ。しかしその子ども世代はずっと少なく、25歳下(10~15歳)と仮定すると669万人しかない。ロスジェネからロスジェネジュニアの人口再生産率は67.4%にとどまっている。

これが異常事態であることはグラフで見るとよくわかる。<図1>は、2016年10月時点の日本の人口ピラミッドだ。



親世代と子世代の年齢差を25歳とすると,ロスジェネ親世代(60~65歳)は1004万人だ。ロスジェネ親からロスジェネへの人口再生産は順調だったが、ロスジェネからロスジェネジュニアはそうはならなかった。

ロスジェネが大学を卒業したのは、世紀の変わり目の不況期で、当時の政権のキーワードは「痛みを伴う改革」「格差があって何が悪い」というもの。若者の自立支援など後回しだった。それまでの世代のように、実家を出て結婚して子どもを育てることが難しくなった。山田昌弘・社会学教授の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)が注目を集めたのはこの頃だ。

若者の「草食化」などと言われるが、そういうメンタル面を強調する前に、その根底にある社会状況に目を向けなければならない。人口再生産が起きなかったのは、90年代後半から今世紀初頭の「政策の失敗」にもよる。生まれるはずだった子どもたちが奪われたといってもいい。



年収もかなり減っている。ロスジェネは2012年では30代だが、この年の30代男性の年収中央値は392万円(総務省『就業構造基本調査』)。20年前の1992年の445万円と比べると53万円も減少した。30代男性の年収中央値が400万円を超える県に色をつけた地図を作ると、<図2>のようになる。



1992年は29県だったが、2012年では9県しかない。「失われた20年」の変化がはっきりと表れている。これは税引き前の年収なので、手取り年収でみたら事態はもっと苦しいものになる。

ロスジェネという特殊な世代の要因かもしれないが、それだけではないだろう。加齢と共に昇給する年功賃金は薄れている。今年の夏に2017年の『就業構造基本調査』のデータが公表されるが、上記の地図はほぼ真っ白になっているかもしれない。

収入が減っているので,子どもの教育費負担や在学中に借りた奨学金返済ができなくっている人も少なくない(奨学金破産)。とくにロスジェネの間でこういう悲鳴が多く上がっている。

教育費の大半を親に払わせる、高等教育の学費をローン(貸与奨学金)でまかなわせて後から返済させるというのは、年功賃金を前提としたシステムだが、その実態は崩壊しつつある。そこで、高等教育の無償化や給付型奨学金が導入されることになった。

ロストジェネレーションは、これまでのやり方が通用しない最初の世代だ。団塊ジュニアより少し下の世代で、人数的にも多い(<図1>参照)。四半世紀後にはこの世代も高齢期に達するが、社会保障制度は抜本的な見直しを迫られるだろう。そうした意味では、社会を変えるポテンシャルを秘めた世代でもある。

<資料:総務省『人口推計年報』、
    総務省『就業構造基本調査』>

舞田敏彦(教育社会学者)

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