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いまだにナゾだった関節がポキっと鳴るメカニズム、ついに解明に近づく

ニューズウィーク日本版 2018年4月4日 18時30分

<関節で鳴るポキッという音のメカニズムはいまだ完全に解明されていない。スタンフォード大学の研究者がその数理モデルを世界で初めて開発した>

手の指や手首、顎、首、肩、膝などの関節で鳴る"ポキッ"というクラッキング音は、骨格や関節の歪みやズレの矯正などの施術の際にしばしば発生するほか、意図的に指をそらしたり、ねじったりすることで、この音を鳴らすことを習慣にしている人も少なくない。

では、なぜ、このような音が鳴るのだろうか。1900年代初頭から科学者の間でたびたび議論の的となりながら、その物理的なメカニズムはいまだ完全に解明されていない。

1900年代初頭から科学者の間で議論に

現在、米スタンフォード大学に所属するヴィニート・チャンドラン・スジャ氏らの研究チームは、フランス理工科学校の修士課程に在籍中、手の指の付け根にある中手骨節関節(MCP関節)でクラッキング音が生成されるメカニズムについての数理モデルを世界で初めて開発し、その研究論文を科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で発表した。

クラッキング音が鳴るメカニズムに関し、これまでの理論の中で最も支持されてきたのが「キャビテーション理論」である。関節に一定のストレスがかかると、関節腔を満たす滑液の圧力が変化して気泡が弾ける、いわゆる"キャビテーション"(空洞現象)が起こり、クラッキング音が鳴るというものだ。

1947年に実施されたイギリスの聖トーマス病院の研究プロジェクトでは、指関節に加える牽引力が7キログラムを超えると、クラッキング音が鳴り、その瞬間、関節内に空洞が発生したことがレントゲン写真で確認された。

また、1971年には、英リーズ大学の研究チームが「気泡が弾ける"キャビテーション"によってクラッキング音が鳴り、一度鳴らすと、再び鳴らすことのできる状態になるまでに20分程度かかる」との見解を発表し、以後、これが有力な理論とされてきた。

しかし、2015年、カナダのアルバータ大学の研究プロジェクトは、被験者の中手骨節関節をMRIで撮影し、クラッキング音が鳴るまでのプロセスを観察したところ、クラッキング音が鳴った後も気泡が滑液に残っていたことから、「クラッキング音は、気泡が弾けるときではなく、気泡が形成されるときに発生する」と主張し、従来の「キャビテーション理論」と矛盾する新たな理論として、近年、議論を呼んでいる。


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気泡が弾けることが原因であることを示す

スジャ氏の研究チームが開発した数理モデルは、中手骨節関節でクラッキング音が鳴る際に気泡が弾ける運動状態を表現するものだ。関節を軸対称と仮定し、クラッキング音が鳴るときの関節内の圧力変動を表わす式、この圧力変動による気泡の大きさの変動を表わす式、気泡の大きさの変動と生成される音とを結びつける式という3つの式で構成されている。

この数理モデルによってシミュレーションされた音の大きさや周波数は、文献に示されているものとよく似ており、音響の波形は、研究チームが20代の被験者3名から測定したクラッキング音とも非常に似ていた。

つまり、この数理モデルは、気泡が弾けることがクラッキング音の原因であることを示している。また、この数理モデルによれば、気泡の一部が弾けるだけでクラッキング音が鳴り、その後も滑液に気泡が残ることが明らかになっており、前述の「キャビテーション理論」にまつわる矛盾も解消されている。

クラッキング音が鳴るメカニズムにはまだ明らかにすべき点が残っているが、スジャ氏らのこれらの数理モデルは、1世紀以上にわたって続く議論に新たな視点をもたらすものとなりそうだ。

松岡由希子

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