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シリア攻撃をイラクが非難「テロ組織を助長する」

ニューズウィーク日本版 2018年4月17日 17時10分

<アサド政権による化学兵器の使用疑惑を受けてシリアに攻撃を行ったアメリカを、同盟国のはずのイラクが非難>

イラクは、4月13日にシリア国内の化学兵器関連施設を攻撃したドナルド・トランプ米大統領の決断を批判。周辺アラブ諸国のテロとの戦いの取り組みを台無しにするものだと主張した。

同国のイブラヒム・ジャファリ外相は、15日にアメリカのジョン・サリバン国務長官代行と電話会談を実施。イスラム過激派組織ISIS(自称イスラム国)との戦いにおいてイラクが同盟国と見ている米英仏3カ国によるシリア攻撃について協議した。

イラク外務省が発表した声明によると、ジャファリはこの中で「政治的解決の模索を優先すべきで、シリアの運命を決める権限はシリア国民のみに与えられるべきだ」と強調したという。

ジャファリはアサド政権の化学兵器の製造および使用疑惑については非難したが、「シリアにおける事態のいかなるエスカレートも、地域全体の安全保障と安定に悪影響を及ぼすことになり、テロ活動に勢いを盛り返すチャンスを与えることになる」と警告した。

「寝た子を起こす」ことになる懸念

アメリカは2003年、イラクのサダム・フセイン大統領(当時)が化学兵器をはじめとする大量破壊兵器を製造しているとしてイラクに侵攻。フセイン政権を転覆させた。その後、イラクが大量破壊兵器を製造していた事実はなかったことが判明したが、アメリカはイラクに駐留を続けて影響力を維持し、イスラム教シーア派主導の政府を誕生させた。

シーア派政権の誕生を受けて、旧フセイン政権で中心勢力だったスンニ派との宗派対立が激化。スンニ派の武装勢力による反乱がおこった。その後、アルカイダを含むこうした複数の武装勢力が結集して誕生したのがISISの前身となる「イラク・イスラム国」だ。

アメリカがイラク駐留米軍を撤退させた2011年、シリアでは政府に対する抗議デモが急速に拡大。欧米諸国、トルコや湾岸アラブ諸国もこれを支援し、内戦状態へと発展した。

ISISは2013年、シリア国内で勢力を伸ばし、同国の反体制派の大半を吸収。2014年にはイラクとシリア両国の半分を掌握するまでになった。しかしその後、アメリカ主導の有志連合やロシア、イランの軍事介入によって支配地域の大半を失い散り散りになった。



シリアは2017年11月にISISへの勝利を宣言。翌12月にはイラクが同様に勝利宣言を行った。これ以降、アメリカとトルコに対して部隊を撤退させるよう求める声が高まっている。イラクおよびシリアの政府がアメリカと敵対関係にあるイランと緊密な関係にあることが、この地域の力学を複雑にしている。

13日のアメリカ主導のシリア空爆はこうしたなかで実行された。中東諸国の中で空爆を非難した国は少なかったが、その一つがイラクで、無断で領空を使われたとするレバノンも非難の声を上げている。

イラク外務省は14日に声明を発表。化学兵器については非難する一方で、シリアにおける最近の情勢に懸念を表明し、国際社会に対してシリアの危機には政治的解決を模索し、テロとの戦いに集中するよう呼びかけた。

シリアとロシア、イランとの関係が鍵に

声明は、反政府勢力との戦闘を続けるアサド政権を支援し、中東でアメリカと影響力を争うロシアとイランに同調するものだ。ロシアは、自国の兵士が危険にさらされると判断した場合には、アメリカのミサイルだけでなく発射車両も攻撃すると警告している。

シリア政府はロシアとイランにのみ国内駐留を認めており、アメリカとトルコに対しては部隊の撤退を求めている。シリア、ロシアとイランの政府はいずれも、アメリカが地域の秩序を乱す手段としてISISやその他のイスラムテロ組織を支援していると非難していた。

(翻訳:森美歩)

トム・オコナー

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