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豚はダメでもクローン豚ならOK?

ニューズウィーク日本版 2018年4月18日 15時45分

<ユダヤ教には厳格な食事規定があるが新しいテクノロジーの登場に伴い現代的な解釈が求められている>

ユダヤ教の食事規定では、豚は食べてはいけない動物に分類されている。ただし、クローン豚は例外だ――イスラエルの著名なラビ(ユダヤ教の聖職者)であるユバル・シャルローのそんな大胆な宣言が物議を醸している。

ユダヤ教の食事規定「カシュルート」の現代的な解釈の第一人者であるシャルローは3月、イスラエルの有力紙イディオト・アハロノトのインタビューで、クローン豚は「コーシャ(食べてもよいもの)」を定めたカシュルートの規定の範囲外にあると述べた。

カシュルートでは、ひづめが分かれていて、反芻をする動物しか食べてはならないことになっている。つまり羊やヤギは食べてもよいが、反芻しない豚はダメ。だがシャルローの解釈によると、クローン豚は豚の体細胞から取り出したDNAを移植してつくられるため、その細胞はもはや豚の「アイデンティティー」を失っているという。

カシュルートでは肉類と乳製品を一緒に食べることも禁じられているが、シャルローによると、クローン豚の肉はこの規定にも当てはまらず、乳製品と一緒に食べてもよいという。

食肉産業は次第に商業主義に走り、カシュルートで禁じられている残忍な方法で殺された食肉が提供されるようになっていると、シャルローは指摘する。

人工培養肉も食べていい

クローン豚を解禁すれば飢餓を減らせるだけでなく、動物の苦痛や環境汚染をもたらす世界的な食肉産業への依存も減らすことができる。

「食糧源は減っているが、人口は急速に増えている。今の世界にとって、この新しい発明は戦略的に重要だ。ユダヤ法の解釈は人類全体のニーズを考慮したものでなければならない」

シャルローはただのラビではない。権威あるゾーハル・ラビ協議会の倫理部門の長を務め、イスラエル保健省の倫理委員会のメンバーでもある。



クローン豚の消費を認めれば激しい議論が起きることは、シャルローも承知の上だ。しかし、この解釈は「不浄な」動物の骨が混入したゼラチンを食べてもよいという判断を踏襲したものにほかならないと、彼は言う。

「ユダヤ法解釈のそうそうたる権威が動物由来のゼラチンをコーシャに分類した。生産過程で風味を失い、食肉としての性質を失うため、もはや食肉とは見なされず、ユダヤ法の規定には当てはまらないからだ」

コーシャの解釈に関わる聖職者の中で、こうした寛容な姿勢を示しているのはシャルローだけではない。報道によると、権威あるコーシャ認定機関「オーソドックス・ユニオン」のコーシャ部門を率いるラビのメナヘム・ゲナックは13年、人工培養肉のハンバーガーを食べることを許可し、乳製品と一緒に食べてもよいとした。

旧約聖書が成立した時代には、こんな問題が浮上するとは想像もできなかっただろうが。

[2018.4.17号掲載]
ベンジャミン・フィアナウ

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