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「ヒトラーが南米逃亡に使った」はずのナチス高性能潜水艦が見つかる 

ニューズウィーク日本版 2018年4月19日 19時0分

<ヒトラー南米逃亡説にこの潜水艦が使われた線はほぼなくなったが、生存説自体が消えたわけじゃない?>

第二次世界大戦末期におけるドイツ劣勢のなか、ナチス崩壊とともにベルリンの総統官邸の地下壕で妻と自殺したとされる独裁者アドルフ・ヒトラー。だが一方で、極秘に南米に逃げ延びたという説も長年囁かれ、戦後ミステリーの1つとして知られている。

戦後73年の今年、そのミステリーを解く重要なカギが発見された。

デンマークのTV2の報道によると、連合軍の手を逃れたヒトラーを含むナチス幹部が乗っていたと有力視されていたドイツ軍の潜水艦(Uボート)「U-3523」が、デンマーク最北端スカーゲンから北に約18.5キロメートルの沖合、深さ134メートルの海底で見つかった。撃沈された当時の報告から、西に約14.5キロメートル離れた地点だった。

Wreck of German submarine U-3523 (Typse XXI) found in Skagerrak. #WW2 https://t.co/hs1Ala0Srv pic.twitter.com/QPq35kO11R— Klaas Meijer (@klaasm67) 2018年4月15日


「U-3523」発見に繋がったのはTV2が企画した、北海に眠る遺産を捜索するプロジェクト。デンマーク海戦博物館の研究者らが中心となって進めていた。

全乗組員が死亡。でも...

「U-3523」がヒトラーらの逃走に使われたと考えられたのには、理由がある。第二次世界大戦末期の1945年5月6日(英メトロ紙)、コペンハーゲンに連合軍が入り、ナチスの占領を解いた。

まさにこの日、スカーゲン沖で爆撃されたUボートが「U-3523」。長時間の潜水航行(水中で630キロ)が可能な同艦は連合軍にとって格好の標的だった。イギリスのB-24爆撃機によって撃沈させられ、乗組員58人は全員死亡とされていた。

しかし「U-3523」の残骸の行方が分からなかったため、実は撃沈は嘘で、ヒトラーを逃走させる極秘任務に当たっていたという噂が独り歩きした。

史実上、ヒトラーの命日は1945年4月30日だが、その死は今日まで多くの謎を秘めたままだ。遺体に関する証拠も曖昧なものが多いと言われ、生存説が根強くある。なかでも、南米アルゼンチンに逃げ延び、偽名で長寿を全うしたという説が真実だと仮定すれば、行方のわからなくなっていた「U-3523」が逃亡に一役買った、というストーリーが有力だった。全長76.7メートルの「U-3523」が当時最先端の潜水艦だったことも噂に真実味を加えていた。



ヒトラーが乗っていた証拠はない

英メトロ紙によると、ナチス幹部が「U-3523」に乗っていたとされる証拠はない。

これについて、プロジェクトに参加したデンマーク海戦博物館のゲルト・ノーマン・アナスン館長は、「戦争が終わったにもかかわらず、『U-3523』がドイツから離れたので、ドイツから貴重な何かを持ち出したと噂が立った」と説明。さらに高性能で長距離を移動できる「U-3523」だったことが噂の信ぴょう性を高めたと考えている。

しかし今回の発見で、「U-3523」が南米に向かっていなかったことが明らかになった。ナチス高官が逃亡の際に持ち出したと考えられていた貴重品なども見つかっていない。

ヒトラーの南米逃亡説は立ち消え?

「U-3523」が注目される理由はもう1つ。それは、ナチスが「U-3523」と同レベル(XXI型)の潜水艦を他に1艇しか持っていなかったこと。その1艇である「U-2540(ヴィルヘルム・バウアー )」は現在、ドイツのブレーマーハーフェン・ドイツ海事博物館に展示されている。


U-2540(ヴィルヘルム・バウアー ) manfredxy-iStock

アナスン館長によると、連合軍の銃撃に遭った際、「U-3523」が極秘の任務に就いていたことが、噂を助長したという。

今のところ、デンマーク海戦博物館では海底に沈む「U-3523」を引き上げる計画はない。だから結局はヒトラーの生死をめぐるミステリーが消滅した訳ではないという。


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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