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中国、北朝鮮を「中国式改革開放」へ誘導──「核凍結」の裏で

ニューズウィーク日本版 2018年4月23日 15時10分

北朝鮮が核凍結などを宣言したことに関し、中国は自国が説得し続けてきた対話路線と改革開放路線の結実と礼賛している。改革開放へと誘導してきた中国の歩みから、今後の中朝関係と北朝鮮のゆくえを考察する。

核凍結とミサイル発射中止を宣言した北朝鮮

金正恩委員長は4月20日に開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、「いかなる核実験も、中長距離および大陸間弾道ミサイルの発射も必要なくなった」と述べ、21日から核実験と弾道ミサイルの発射を中止すると宣言した。北部にある核実験場もその使命を終えたとのこと。

ただし、「核の威嚇や挑発がない限り、核兵器を絶対に使用しない」という条件を付けており、暗に「米韓の出方次第だ」と、南北首脳会談、特に米朝首脳会談への牽制もしている形だ。

それに対して中国は

中国では、中国共産党の機関紙「人民日報」をはじめ中央テレビ局CCTVなど多くの党および政府のメディアが一斉に金正恩の決断を礼賛し、さまざまな特集を組んでいる。

中国は早くから一貫して対話路線と改革開放路線を北朝鮮に要求してきただけに、ようやく中国の主張が実り始めたと、自画自賛しながら金正恩の決断を讃えている。

中国が北朝鮮の言動に危機感を覚え、6者会談(6ヵ国協議、6ヵ国会談、6者会合とも)に金正日(キム・ジョンイル)総書記(総書記は多数ある肩書の一つ。以下すべて敬称略)を誘い込むために動き始めたのは2003年3月だ。胡錦濤は2003年3月の全人代(全国人民代表大会)で国家主席に選ばれると直ちに、「北朝鮮核危機対応小組」を結成して、胡錦濤自らが組長に就任し、第二次北朝鮮核危機に対応すべく、6者会談の基本枠組みの構築に着手した。

国家主席に選出される前の3月8日、胡錦濤は当時の銭其シン(せん・きしん)副総理、王毅外交副部長などを北朝鮮に派遣して金正日の説得に当たった。

胡錦濤は金成日に、「戦争の準備をせずに、対話によって問題を解決し、改革開放により経済建設に専念してくれ」と頼んだのだ。しかし金正日は「北朝鮮の事情は中国とは違う」として、この申し出を当初は受け入れようとしなかった。

そこで胡錦濤は「6者会談を進めていけば、いずれ米朝首脳会談にもつながり、悲願の休戦協定を平和条約(終戦協定)に持っていくことも可能だ」と金正日を説得した。すると金正日は「それならば」と、ようやく承諾したと、中国の記録には残っている。

こうして6者会談が2003年8月から始まったのだが、このとき中国は北朝鮮に以下の3つの要求を出している。

1.北朝鮮は経済的自立に努力すること。

2.北朝鮮は中国式の改革開放を推進すること。

3.北朝鮮が大規模殺傷性の武器の研究開発を終結させ周辺国家に脅威を与えないようになってこそ、中国は初めて北朝鮮の国際社会における安全を保障し、かつ北朝鮮の経済発展を支援することができる。



今般の金正恩の核凍結および弾道ミサイル発射中止は、まさに中国の長年にわたる要求が実現したものと、中国は位置付けている。

「中国式の改革開放」に焦点

ここで重要なのは、中国は金正恩が総会で「強力な社会主義経済を建設して、人民の生活レベルを画期的に向上させる闘いに全力を注ぐ。経済発展のために有利となる国際環境を創り出し、朝鮮半島と世界の平和のために、(北)朝鮮は周辺の国家および国際社会と積極的に緊密な連携と対話を展開していく」と言ったことに焦点を当てていることだ。

なぜなら中国は1992年以来、北朝鮮に改革開放を求めてきたからだ。特に鄧小平は、韓国と国交を樹立させた中国に激怒して「そんな裏切り行為をするのなら、中華民国(台湾)と国交を樹立してやる!」と怒鳴った金日成(キム・イルソン)に対して、「改革開放をしろ!」と怒鳴り返している。

以来、中国が北朝鮮に「中国式の改革開放を推し進めよ」と言わなかったことはない。鄧小平以来のどの政権になっても、間断なく「中国式の改革開放」を北朝鮮に要求してきた。

金正恩政権は2013年から経済建設と核戦力建設の並進路線を唱えてきたが、今や核戦力の建設は終えたと勝利宣言している。ようやく経済建設に全力を注ぐ状況になったにちがいない。今後の北朝鮮はまさに「中国式の改革開放」満開といったところだろう。

一党支配体制維持のために「紅い団結」を強化

「中国式の改革開放」とは何かというと、一党支配体制を維持したままの改革開放で、これを「特色ある社会主義思想」と称する。

習近平は昨年10月に開催された第19回党大会で、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に記入した。4月12日付のコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?>に書いたように、中朝両国は今後、この「紅い団結」を強化していくというのが、基本路線である。習近平にとっては、この党規約に書き込んだ「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」が如何に正しく強大であるかを中国人民に知らしめたい。

折しも関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から知らせがあった。

4月23日の北朝鮮の労働新聞は「経済建設総力戦」の一色だったという。

中朝双方からの情報が一致するので、北朝鮮はきっと「紅い団結」に基づいた「中国式の改革開放路線」を全開にしていくことだろう。今般の金正恩の動きの背後には習近平がいたことが、このことからも窺い知ることが出来る。

なお、中国政府関係者は今もなお、北朝鮮の核放棄に関して、必ずしも完全に信頼しているわけではないと、筆者に吐露した。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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