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教育現場は「ブラック労働」、若手教員の心身が蝕まれる

ニューズウィーク日本版 2018年4月25日 16時50分

<心身を病んで職場を去る学校の教員が増加している。2000年以降、矢継ぎ早に実施された教育改革と、若手に様々な雑務が降ってくる職場の構造が問題>

日本人の働き過ぎはよく知られているが、なかでも教員の長時間労働は酷い。中学校教諭の週間の平均勤務時間は63.2時間にもなり、4人に1人が週70時間以上働いている(文科省『教員勤務実態調査』2016年度)。おそらく、全ての中で最も長時間労働の職務の1つだ。

残業代やタイムカードの概念もない。教員の場合、不測の事態で時間外労働が生じることが多々あるが、月収の4%の教職調整手当でそれが賄われている。月給の4%上乗せで使い放題だ。やりがい感情につけ込み、授業以外の業務も多く担わされ,あたかも「何でも屋」のように見なされている。この傾向は、時代と共に強くなってきている。

現在は教職危機の時代だが、それは心身を病んで教壇を去る教員の率に表れている。2015年度の公立中学校教員の病気離職者(その多くが精神疾患)は339人で、同年の本務教員1万人当たり14.2人となる。

この病気離職率はどう推移してきたか。公立の小・中・高校の長期推移を描くと<図1>のようになる。



80年代の前半では、中学校教員の病気離職率が高かった。当時、全国的に学校が荒れていたためだろう。その後、荒れの鎮静化と共に離職率は下がるが、世紀の変わり目をボトムに上昇に転じる。急な右上がりだ。

今世紀以降、様々な教育改革が矢継ぎ早に実施された。2006年の教育基本法改正、2007年の全国学力テスト再開、主幹教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の強まり)、2009年の教員免許更新制施行、外国語教育の早期化......。教員の病気離職の急増は、こうした急展開に現場が翻弄されていることの表れかもしれない。だとしたら皮肉なことだ。

学校をとりまく外部環境も変わった。それを象徴するのが、学校に無理難題をふっかけるモンスターペアレンツの増殖だ。東京都がこの問題に関する調査報告書を出したのは2008年だが、<図1>に示されている病気離職率の上昇期と重なっている。



なお病気離職率は年齢層別に出すこともできる。危機状況が強まっているのはどの層か。<図2>は、小・中学校教員の病気離職率の年齢カーブを1991年度と2015年度で比べたものだ。



病気離職率はどの層でも増加しているが、その幅は若年層で大きい。この四半世紀にかけて小学校は4倍、中学校は3倍以上に増えている。最近の中学校では、体力の衰えた50代よりも、入職して間もない20代の病気離職率が高い。

今は学校現場も余裕がなくなり、先輩教員が若手を手取り足取りサポートするのが難しい。2004年に静岡県の小学校の新任女性教員が自殺した。先輩の助けが得られず、担当学級で頻発する諸問題に孤軍奮闘したことによる鬱が原因だったそうだ。

その一方で、各種の雑務を押し付けられる。中高の部活指導が教員の負担になっていることが問題視されているが,部活指導時間は若手教員ほど長い(OECD「TALIS 2013」)。人口全体と同じく教員の年齢構成も逆ピラミッド型の県が多いが、量的に多い中高年層が若年層の重荷になっている。若年教員の病気離職率の増加は、こうしたいびつな構造も1つの要因と考えられる。

国もようやく学校の異常事態を認め、昨年夏に「学校における働き方改革に係る緊急提言」が出された。タイムカードによる勤務時間把握、校務のICT(情報通信技術)化、部活動の休業日の導入、部活動指導員やサポートスタッフの活用、といったことが提言されている。一般社会では当然のことを学校に導入し、教員免許がなくてもできる仕事は他のスタッフにやってもらおう、ということだ。

未来の担い手を育てる学校で、ブラック労働のモデルを見せていいはずがない。学校における働き方改革は、当の教員だけでなく、子どもたちの将来の幸福にとっても必要不可欠だ。

<資料:文科省『学校教員統計』、
    文科省『学校基本調査』>



舞田敏彦(教育社会学者)

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