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ジュエリー界が注目! 世界最大手がミレニアル向けで勝負に

ニューズウィーク日本版 2018年6月8日 16時30分

<世界最大手のダイヤモンド専門企業、デビアスグループは、長年、合成ダイヤモンドを素材とするジュエリーブランドの立ち上げに消極的な姿勢を示してきたが、今回の大幅な方針変更を決定。ジュエリー業界を中心に注目を集めている>

"ダイヤモンドは永遠の輝き"というスローガンで知られるダイヤモンドの採掘・流通・加工・卸売の世界最大手デビアスグループは、2018年5月29日、合成ダイヤモンドを使ったジュエリーブランドを手がける新会社「ライトボックス・ジュエリー」を設立した。

2018年9月には、「ライトボックス」というブランド名のもと、天然ダイヤモンドをベースとした既存ブランド「デビアス」よりも安価なファッションジュエリーを米国で販売開始する。

デビアスグループでは、長年、合成ダイヤモンドを素材とするジュエリーブランドの立ち上げに消極的な姿勢を示してきたことから、今回の大幅な方針変更に対して、ジュエリー業界を中心に注目を集めている。

天然ダイヤモンドは、地下の高温・高圧な環境で生成される

ダイヤモンドは、炭素原子が高温かつ高圧の環境で互いに結合し、結晶化がすすむことによって生成される天然で最も硬い物質だ。ダイヤモンドの結晶の内部の原子はまったく同質ものであり、かつ、完全に規則的な配列でなければならないが、炭素原子は、炭素原子同士よりも、酸素や水素などの他の原子と結合しやすいため、完璧な結晶を形成するのはたやすいことではなく、地表でこの現象が自然に起こることはない。

天然ダイヤモンドは、地下100マイル(約161キロメートル)ほどの深さにある高温かつ高圧な上部マントルで、そのための要素と環境が整ってはじめて生成される。

1954年、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の研究チームが炭素からダイヤモンドを人工的に生成する機械の開発に成功し、1950年代後半以降、合成ダイヤモンドは、切削工具や研磨材などに広く用いられるようになった。

デビアスグループ傘下の「エレメント・シックス」でも、1960年に南アフリカ共和国で合成ダイヤモンドの量産を開始して以来、50年以上にわたって、合成ダイヤモンドの開発・製造に取り組んできた。

とりわけ、大気圧よりも低い圧力で安定させた真空チェンバーでメタンと水素との加熱化合物から炭素を堆積させ、ダイヤモンドに生成する「化学気相蒸着(CVD)法」を活用した、純度の高い合成ダイヤモンドの製造に強みを持っている。



結晶の純度を人工的に制御することで、ダイヤモンドの新たな用途も開かれている。

たとえば、原子の不純物を、結晶内で隣接する原子から干渉されない光の粒子を生成する"松明"として利用し、量子コンピュータの情報保存の仕組みに応用することが考えられる。また、ホウ素の不純物は、電気を通すダイヤモンドの生成に活用でき、シリコンや金属に代わる素材となりうるという。

"ミレニアル世代"向けに手ごろな価格帯で展開

「ライトボックス」では、「エレメント・シックス」などを通じて長年培った合成ダイヤモンドの製造手法やノウハウをジュエリーに応用し、1981年から2000年までに生まれた、いわゆる"ミレニアル世代"を主なターゲットに、0.25カラットで200ドル(約2万2000円)から1カラットで800ドル(約8万8000円)までの手ごろな価格帯でイヤリングやネックレスなどのジュエリーを展開する方針だ。

また、その生産拠点として、英国にある「エレメント・シックス」の既設工場に加え、今後4年間で総額9400万ドル(約103億円)を投資して米オレゴン州ポートランドに生産工場を新設し、年間50万カラット規模の合成ダイヤモンドの生産体制を構築する計画を明らかにしている。

合成ダイヤモンドを手がけるジュエリー企業としては、俳優のレオナルド・ディカプリオも出資者として名を連ねる米サンフランシスコの「ダイヤモンド・ファウンドリー」などが先行しているが、老舗のデビアスグループがこの分野に参入することで、市場競争もさらに激しくなりそうだ。



松岡由希子

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