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【写真特集】自傷する彼女たちが求める居場所

ニューズウィーク日本版 2018年6月8日 18時0分

<「自分のことを大切にしろと何度も言われたけど、どうしたらそう思えるのかが分からない」>

ある少女は「自分のことを大切にしろと何度も言われたけど、どうしたらそう思えるのかが分からない」と話した。

自傷――リストカットに代表される、自らの体を傷つける行為で、習慣化することも多い。耐え難い記憶や感情といった精神的な苦痛を、身体的な苦痛に置き換えることで一時的に緩和できるからだと言われる。

写真家の岡原功祐が自傷の取材を始めたのは14年前。こうした行為を行う人に共通していたのは自尊心を失い、自己否定を繰り返して内に籠もり、自身の価値を認められずに苦しんでいるように見えることだった。

岡原のフォト・ドキュメンタリーブック『Ibasho 自傷する少女たち"存在の証明"』は、自らを傷つけずには生きられない女性たちを追った記録だ。写真で自らの姿を客観的に見ることにより、自分は何ものにも代え難い大切な存在だと理解してほしいと岡原は考えている。

ここで紹介するのはその一部。現在、彼女らは精神的な落ち着きを取り戻して自傷から抜け出している。その1人、ゆかは本を受け取ると、「どんな人でも抜け出せるというメッセージになったらいいな」と話した。


<凪ちゃん>腕に残る自傷の痕。借金を繰り返す父と、それを止めようとする母との怒鳴りあいが続く家庭で育った。最初に通った高校では、周りから無視された。どうしても衝動を抑えられずに自傷した後には、罪悪感でまた調子が悪くなるという悪循環を繰り返していた。現在は症状が落ち着き、定職に就いて病院に通う必要もなくなった。


<凪ちゃん>鬱の治療のために通院する精神科の階段を上る。この日は体調が優れず、病院に向かう電車で手すりにしがみついて下を向き、必死に呼吸を整えようとしていた。


<ゆか>「切らないと落ち着かない」と繰り返し言った後、手首にカミソリを当てる。手が止まったのは15分ほどしてからで、「なんか落ち着きました」とため息をついた。


<ゆか>おしゃれもメークも好きな彼女だが、人混みではパニック障害の症状が出ることもあった。大学の先輩にレイプされてから自尊心を失い、自身の価値を否定するように。自殺未遂を起こしたこともあったが、彼氏の「そのままでいいの?」という言葉をきっかけに、負けず嫌いでプライドの高いもともとの自分を取り戻すことができた。

<ミリ>目の焦点が合わなくなり、「ああ切りたい、切りたい」と言い出し、「ずっと我慢してたんです。ずっと切りたくて仕方なかったんです」と、カッターで太ももを切り始めた。


<ミリ>自分の気持ちを吐き出すために作ったウェブサイト。幼い頃、酒乱の父から暴力を振るわれて育つ。大学院で勉強についていけなくなったころ、パニック障害に陥って自傷が始まった。現在は実家暮らしで、コールセンターで働く傍ら、地元のラジオ局で番組を持っている。


<ミリ>5分ほどでカッターを置き、ティッシュで血を拭いた。


<木部ちゃん>病院の待合室で。精神科と、切り傷を治療する外科の診察を受けていた。


<木部ちゃん>自宅近くの木で、首つり自殺を図ったこともある。父の事業の失敗で、幼い頃から借金取りに追われる生活を送った。鬱と境界性パーソナリティ障害のため、抗鬱剤や抗不安剤など多くの薬を服用。取り立ての増加に伴って症状が悪化し、自傷だけでなく薬の多量摂取も繰り返すようになる。2014年から自傷はしておらず、実家を離れて結婚、出産。小学生の長女から腕の傷痕について聞かれ、「病気だったからよ」と話したという。


Photographs by Kosuke Okahara

撮影:岡原功祐
1980年東京都出身。「人の居場所」を主なテーマにした作品を国内外の主要メディア、美術館、ギャラリーなどで発表している。本作は新著『Ibasyo 自傷する少女たち"存在の証明"』(工作舎刊)からの抜粋。現在、東京・京橋「72Gallery」で岡原功祐展「Ibasyo 自傷する少女たち"存在の証明"」開催中〜7月1日まで。

≪リンク≫
▼新著『Ibasyo 自傷する少女たち"存在の証明"』(工作舎刊)
▼岡原功祐

<本誌2018年4月24日号掲載>

Photographs by KOSUKE OKAHARA

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