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石けんや歯磨き粉に含まれるトリクロサンの危険性──がん細胞の成長促進も

ニューズウィーク日本版 2018年6月11日 15時50分

米国では2016年に石けんへの使用を禁止

日常的に使用される家庭用消費財に含まれる抗菌性・抗真菌性の物質「トリクロサン」が、腸の炎症を引き起こすとの研究結果がこのほど発表された。米月刊誌ポピュラー・サイエンス電子版は、トリクロサンへの接触で大腸がんにかかるリスクが高まることを示唆していると伝えている。

ポピュラー・サイエンスによると調査を行ったのは、マサチューセッツ大学アマースト校の食品科学者らのグループ。調査結果は米科学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシン電子版(5月30日付)に発表された。

トリクロサンについては、米国では2016年9月、トリクロサン等19成分の殺菌剤について石けんへの使用が禁止された。これを受けて日本の厚生労働省も同年9月30日、米国が禁止を決定した19成分を使用しないようメーカーに働きかける方針を発表している。

しかしそれでも、トリクロサンが使用されている家庭用消費財は多い。サイエンス・トランスレーショナル・メディシンの記事によると、米国でトリクロサンへの接触を避けることは不可能に等しく、歯磨き粉、化粧品、台所用品、おもちゃなど2000以上の製品にトリクロサンが含まれている。

カナダの公共放送局CBCのウェブサイトによると、カナダの場合は液体石けんの75%、固形石けんの29%にトリクロサンが含まれているという。

善玉菌まで殺し腸内フローラを破壊

実験では、研究用のマウス(健康的なマウスのグループや意図的に病気にさせたマウスのグループなど)に、トリクロサンを混ぜた水を3週間にわたって与えた。トリクロサン入りの歯磨き粉を人間が2週間使用した場合に体内に取り込まれるトリクロサンと同じレベルにするためだ。

どのマウスも、消化器官になんらかの問題が生じた。直腸が炎症し、そのため直腸出血、下痢、腹痛を引き起こしたほか、死期が早まるなどもあった。すでに結腸がんを患っているマウスの場合は、腫瘍の成長が速まった様子がみられたという。

原因は、トリクロサンの殺菌力がビフィズス菌など腸内の善玉菌まで殺してしまい、腸内フローラの多様性を破壊してしまうことにある、とポピュラーサイエンスは説明している。

前述のCBCは、トリクロサンの分子は非常に小さいため、石けんやシャンプー、シェービングクリームなど口に入らない製品を使用した場合でも皮膚を通じて体内に入る、と説明している。



抗生物質が効かなくなる懸念も

トリクロサンの人体への影響について、米テネシー大学の疫学者ポール・テリー氏(今回の研究には関与していない)は「まだあまりわかっていない」と話す。ただ、歯磨き粉に含まれている場合は歯肉炎を予防するが、他にも歯肉炎を予防できる方法はあるためトリクロサンを入れる必要はない、とポピュラーサイエンスに説明している。とは言うものの、マウスに対して行った実験の結果を受けて、トリクロサンが人間の腸もボロボロにするとすぐに結論づけるのは性急すぎるとの考えも示している。

一方で米マーケット大学のパトリック・マクナマラ氏(今回の研究には関与していない)はポピュラーサイエンスに対し、人体への直接的な影響のみならず、病原体が抗生物質に耐性を持ってしまう原因になりうるというトリクロサンの危険性を指摘。そのため恩恵より懸念の方が多く、トリクロサンが含まれる製品は個人的に使用を控えているし、自分の子供にも使わせない、と話している。

Why Did The FDA Ban Antibacterial Soap?

松丸さとみ

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