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トランプ支持者は、なぜ「ロシア疑惑」を許すのか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年7月17日 16時0分

<国家への忠誠を重視するアメリカではトランプの「ロシア疑惑」は重大な問題だが、それでも「米市民だけが良ければそれでいい」コアな支持層の信頼は揺るがない>

アメリカという国は「国家への忠誠」を大事にします。例えば、小中学校では毎日「国旗への誓い」という文言を唱和していますし、国旗国歌を大切にする習慣も強いです。反面、「裏切り」行為を憎むという傾向も強いものがあります。

60~70年代のベトナム戦争の時代には、徴兵を逃れてカナダやオーストラリアに渡航する若者が多く出ました。そうした徴兵忌避行為は、国内では厳しい批判を浴びました。彼らが最終的に免罪されるのは1977年にカーター大統領が就任した後でした。

制度面では、例えば政治資金の規制というのは、アメリカの場合は非常に緩いのですが、外国籍の個人や外国企業からの献金は厳格に禁じられています。また、アメリカは二重国籍を認める国ですが、それは外国との重国籍に寛容というより、全ての市民(国民)に義務を課すためというところがあります。

そのアメリカの「国家への忠誠」という考え方からすると、トランプ大統領に関する「ロシア疑惑」というのは、非常に深刻に考えられて当然と思われます。

1)2013年にモスクワのホテルで「乱行」を行い、その証拠がロシア当局に握られているという噂がある。

2)2016年の大統領選で、トランプ陣営はロシアの諜報機関に対して、民主党全国委員会(DNC)の電子メールをハッキングさせたという疑惑がある。

3)政権の周囲には、ロシアとの癒着が立件されて起訴された人間が複数存在する。

4)大統領自身が、ロシアのプーチン大統領を尊敬すると公言し、シリア問題など中東情勢はロシアに任せると明言してきた。またロシアのウクライナへの干渉や、クリミア半島の併合も正面切って反対していない。

5)第二次大戦後の自由陣営の象徴であったNATOに対して、あるいは、日本やカナダを含むG7の同盟国に対して、通商戦争を仕掛けて、敵視する構えを見せている。

主要なものでも、この5つのストーリーがあり、その全体像を見れば、トランプ政権はロシアと癒着していると言われてもおかしくありません。



しかも、今回7月16日にフィンランドのヘルシンキで行われた米ロ首脳会談では、こうした疑惑は払拭されるどころか、深まるばかりという結果に終わりました。

特に、トランプ大統領がプーチン大統領との共同記者会見の席上で、再三にわたって「ロシア疑惑」を捜査している米司法当局を批判したことは、驚きを持って受け止められています。一体「どこの国の大統領か?」というわけです。米政界では、民主党だけでなく、久々に共和党の穏健派も批判の合唱に加わっていました。

ところが、共和党の中でも「トランプ支持派」と言われる議員たち、特に今年の11月に中間選挙での改選を控えている議員たちからは、今回の米ロ首脳会談に対する批判はあまり聞こえてきません。つまり、トランプの「コアの支持者」は、このような対ロシア外交についても大統領を支持しているのです。

トランプの「コア支持層」といえば、「アメリカ・ファースト」というか、大統領が2017年1月の就任式に際して述べたように「アメリカ・ファースト・オンリー」という考え方の人々です。保守的で、愛国的であり、まさに「国家への忠誠心」を宗教のように大切にする人々です。そんなグループが、どうして「ロシアとの癒着疑惑」を許しているのでしょうか?

その理由は3つあると思います。

1つは、大統領の言い分を100%支持しているということです。ですから、CNNは「フェイク・ニュース」であり、FBIや特別検察官の捜査は「ディープ・ステート(アメリカの隠された本流としての権力グループ)」の陰謀だと思っているのです。

2つ目は、大統領が「個人の才覚」で「ディールしている」という、パフォーマンスを支持していることです。大統領が「ディール」で問題を解決していく限りにおいては、相手は「癖のある悪者」でも構わないわけで、そうした「クセのあるリーダー」と「対等に渡り合っているトランプ」は、NATOやG7などで同盟国に支援ばかりして、肝心の中国や北朝鮮、ロシアとの関係改善はできなかった過去の大統領より優れているというのです。

3つ目は、ではトランプのコアの支持者は、大統領を「王様のように尊敬して忠誠を誓っている」のかというと、そうではありません。また「自由と民主主義を信じていない」のかというと、これも違います。彼らは、あくまで主権者であり、その投票行動でトランプを支えたり、嫌いなヒラリーを負かしたりすることで、有権者としての自分が世界の中心であることを確認したいのです。



ですが、そうした「自由と民主主義」はアメリカだけのもので良く、他の世界はどうでもいいと思っています。むしろ、独裁者さえ「トップ交渉」で味方にできるのであれば、交渉相手は独裁国家の方が簡単でいいと思っています。移民や難民を迫害しても平気なのは、合衆国憲法の基本的人権は独立戦争や開拓で苦労した先人の末裔である「アメリカ市民」だけに適用されると考えているからです。

こうした異常な感覚が「アメリカ・ファースト」という発想の裏にあり、その発想から「プーチンという独裁者と対等に渡り合うトランプ」に対して喝采を送り、それを批判している政治家やメディアを「偽善者」と憎悪しているのです。

その意味で、今回の米ロ首脳会談というのは、いかにもトランプらしいものだったと言えるでしょう。反対派がいかに口を極めて批判しても、コアの支持者の大統領への信頼は揺らがないのです。

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