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トランプが脅してもインドと中国はイランの味方 

ニューズウィーク日本版 2018年7月25日 16時52分

<トランプが呼びかけるイラン産原油の輸入禁止に従う国はどれぐらいあるのか? 少なくともインドと中国は輸入を増やしている>

アメリカとイランの対立がいよいよ激しさを増している。イランのロウハニ大統領は7月22日、アメリカのドナルド・トランプ大統領が呼びかけているイラン産原油の輸入停止が実行されれば、ホルムズ海峡を封鎖する、と示唆した。するとトランプ大統領はすかさず、「2度とアメリカを脅せば悲惨な結果を招く」と威嚇した。

だが、トランプの言葉の激しさとは裏腹に、脅しはイランにはあまり効き目がないかもしれない。何しろ、世界の2大原油消費国の中国とインドは、イランからの原油輸入を逆に増やしているのだ。

インドの石油・天然ガス省が7月23日に公表したデータによれば、4~6月にインドが輸入したイラン産原油の量は567万トン、1日あたりでは45万7000バレル。サウジアラビアからの輸入を上回った(インドの最大の原油輸入先はイラク)。

イランの核開発に対する大規模な制裁が解除され、イランが原油輸出を再開した2016年1月以降、イランは原油価格の割引や信用貸し、輸送費の安さなどで顧客を増やしてきた。そうしたメリットを享受してきたインドの製油業界の今年度のイラン産の原油輸入量は前年度比の2倍近くになる計画だ。

再制裁の足音

そこへ、アメリカによる再制裁の脅威が迫ってきた。トランプは今年5月、欧米など6カ国とイランが結んだ核合意を単独で離脱した。オバマ前政権下で結ばれた核合意は、イランの核開発を封じるものになっていない、という理由からだ。完全に核開発を放棄するまで、各国に呼びかけ経済制裁を再開する意向だ。第1弾は8月6日、第2弾は11月4日に発動する見込みだ。

原油取引に対する制限がうまくいけば、インドは計画どおりの輸入ができなくなる可能性もある。実際、6月の輸入量は、5月と比べて15%以上減少している。

他方、トランプが始めた米中貿易戦争のただなかにある中国は、アメリカからの原油輸入を減らし、イラン産に切り替えつつある。中国の石油製品は、アメリカがいずれ高い関税を課すと警告している品目のリストに含まれている。実際に関税が引き上げられれば、中国は報復でアメリカからの原油に追加関税をかけるだろう。一部の中国の製油業者は、それを見越して予防的にイランからの輸入を増やしているのだ。



中国は、世界最大の原油輸入国であると同時に、イランの石油製品の最大の輸出市場でもある。また中国は、アメリカ産原油の世界第2位の輸入国でもあるが、それについては長くは続かない可能性がある。というのも、米中貿易戦争の影響を避けるために中国の製油所が中東と西アフリカに目を向けているからだ。

中国は、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスとともに、トランプが一方的に離脱した核合意を維持しており、制裁に加わる理由もない。

アメリカとイランの間の緊張にもかかわらず原油価格が比較的安定しているのは、こうしたアメリカとその他の主要国の足並みの乱れから、対イラン再制裁があっても原油不足にはならないと市場が考えているからだろう。原油は逆に過剰になるというのか、北海ブレント原油の価格はここ数日下落している。

(翻訳:ガリレオ)

International Business Times

<本誌7/31号(7/24発売)「世界貿易戦争」特集では、貿易摩擦の基礎知識から、トランプの背後にある思想、アメリカとEUやカナダ、南米との対立まで、トランプが宣戦布告した貿易戦争の世界経済への影響を検証。米中の衝突は対岸の火事ではない>

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ヒマーンシュ・ゴエンカ

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