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LGBTへの日本の行政支援は「度が過ぎる」のか

ニューズウィーク日本版 2018年7月28日 18時40分

<子供を産まない同性愛者は「生産性」がないと主張して総スカンを食らっている杉田水脈議員の記事を読んでみたが......>

自民党衆院議員の杉田水脈(みお)が「新潮45」へ寄稿した記事「『LGBT』支援の度が過ぎる」が、日本社会から総スカンを食らっている。国民の代表である国会議員の「生産性のないLGBTの支援に税金を使うなんて無駄」という主張は確かにひどい。とはいえ記事掲載にはそれなりの手順を踏んでいるはず。最後までちゃんと読んでみたが......。

杉田は冒頭で、この1年でLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)についてどれほど報道されたかに触れる。根拠が新聞検索なのは統計手法的に微妙だが、まあいいとしよう。

ここで彼女は、朝日新聞や毎日新聞の報道が多いと指摘。朝日が260件、毎日が300件(読売も159件と少なくない)だが、杉田はなぜか「朝日新聞の影響力の大きさは否めない」と結論を導く。本来ならまず「毎日新聞の影響力の大きさ」を書くのが筋。そう書かなかったのは、この記事が特集「日本を不幸にする『朝日新聞』」の1本だから。要は、LGBTが朝日批判のだしに使われたのだ。

杉田は「LGBTだからと言って、実際そんなに差別されているものでしょうか」と疑問を呈する。命に関わる宗教的迫害がなかったことを考えれば日本は同性愛に寛容、という杉田の主張はよく耳にするが、差別の事例など少し調べればいろいろ出てくる。

90年代に東京都が同性愛者団体の施設使用を拒否した「府中青年の家」事件を知らないのだろうか? そもそも、差別されても殺されなかったからいい、というものではない。

大先輩議員をまねた?

「自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます」という宣言自体はご立派だが、これは差別主義者が「私は差別主義じゃない」と言いたいときに使うお手本のような言い訳。「だったりしても」とあくまで仮定なのもミソで、本当にそういう友人がいるなら、今回の騒ぎで彼女を擁護する声が聞こえてもよさそうなものだ。

そして杉田はLGBTに税金を使うのはいいことかと問い掛ける。税金の使途を厳しく監視する姿勢はまさに議員のかがみ! では実際はどの程度使われているのか。

同性パートナーシップ制度をいち早く導入した渋谷区の場合、平成30年度の男女平等・LGBT関連予算が1300万円。予算総額938億円の0.01%でしかない。これで「度が過ぎる」と批判するのは度が過ぎる。



「彼ら、彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」の部分は人権無視だと批判されているとおり。同性愛者を「子供をつくらず役に立たない」と迫害したナチスの思想とそっくりだ。麻生副総理もかつて、「ナチスの手口を見習ってはどうか」「ヒトラーの動機は正しい」というような発言をしているので、大先輩をまねたのかと思いたくなるが、杉田の主張は以前から同じ。

それを分かった上で自民党も彼女を17年10月衆院選の比例名簿に載せた。「私、間違ったこと言ってないよね?」と彼女が思うのも当然なら、二階幹事長が「いろんな人生観がある」とかばうのも当然だ。

杉田の主張で唯一まともに見えるのが、LGBTを一くくりにするのはおかしい、という部分だろうか。LGBは「性的指向」、Tは「性自認」で、異なるものであるのは確かだ。だがここで杉田は、LGBは「性的嗜好」と書く。同性愛は個人的趣味(嗜好)ではなく、恋愛対象の方向性(指向)の話なのでこれは完全な誤用。意図的な書き違えだろうが、自分に都合のいい議論に導くためにまやかしもいとわない姿勢には、すがすがしささえ感じる。

......と、丁寧に読んでみたら想像以上にひどかったので本人の事務所へ取材依頼したところ、「この問題については全ての取材をお断りしている」とのこと。説明を聞けなかったのは残念だが、これからの議員活動でどれほどの生産性を見せてくれるのか楽しみにしている。

<本誌2018年8月7日号「EU崩壊 ソロスの警告」掲載>


大橋 希(本誌記者)

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