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死後に家族が困らない、デジタル遺産の管理・対策

ニューズウィーク日本版 2018年8月2日 17時30分

<インターネットのアカウントから銀行口座まで、デジタル関連の遺産対策法>

あなたの大切な兄が交通事故で亡くなった。あとに残されたのは怒り、嘆き悲しむ遺族だけでなく、フェイスブックやGメールから銀行などの取引まで、何十ものインターネット関係のアカウント......。そんな状況を考えてほしい。

あなたは裁判所から、兄の遺産を整理する法的権限を与えられるだろう。ではネットのアカウントについては、一体どれほどの権限があるのか?

それは、兄が生前にどんな措置を取っていたかによる。ネットのアカウント権限や法律が相続人に何を許すかにもよるだろう。

かつてなら、ある人が意思決定能力を失ったり亡くなったりした場合は、法的に認められた受託者(本人の代わりに管理権限を与えられた人)がその人の家に行って、銀行口座や所有株式の記録、未払いの請求書、商取引の書類などを探し出したものだ。法律によって、受託者に管理権があることは明確にされている。

だが今は違う。私たちの多くはペーパーレスの手段を選び、例えば資産報告書はデジタル化されて送られてくる。納税申告書さえ電子的な手段で提出する。ラブレターや写真、ビデオテープがベッド下の箱の中にしまわれていることはもうほとんどない。

2013年にネットセキュリティー大手マカフィーが発表した調査によれば、クラウドに保管してある写真からアプリ、金融記録まで、私たちが所有するデジタル資産は平均で3万5000ドル相当以上の価値があるという。

大抵の場合、こうした文書や記録をかき集めるためには、まずその人のコンピューターにアクセスしなければならない。ただしアメリカでは、法的な権限なしに他人のコンピューターやアカウントを利用することは連邦法と州法で禁じられている。

一部のインターネットプロバイダーやサイトでは、自分でアカウントを管理できなくなったときにどうするかを設定しておくことができる。フェイスブックは15年、「追悼アカウント管理人」を指名する機能を付けた。家族や友人を管理人にすると、自分の死後にその人がアカウントの維持管理、場合によっては削除ができるようになる。ただし故人に成り済ましてログインしたり、故人の私的メッセージを見たりすることはできない。

グーグルが用意しているのが「アカウント無効化管理ツール」だ。一定期間アカウントの利用がなければ指定した連絡先(最大10人)にメールで通知し、アカウントのデータを公開するよう設定できる(ただしアカウントは引き継げない)。あるいはアカウント自体を自動削除することも可能だ。



まずは現状把握と分類から

でも、あなたの兄がこうした手続きをしたり、遺言を残したりしていなかったら? その場合はアカウントのサービス利用規約によって、デジタル遺産の扱いが決まる。ただし規約の多くは、ユーザー死亡後の遺族の相続に関することまでは視野に入れていない。

最後のとりでとして、アメリカには「デジタル資産への受託アクセス法」がある。およそ90%の州で制定されており、遺族などの受託者がデジタル遺産のほとんどを適正に相続できるようにするものだ。

日本ではそうした法整備は進んでおらず、遺族が本人の許可なしにアカウントにログインする例が少なくない。プロバイダーなどの利用規約に反している恐れはあるものの、時間的、物理的な必要に迫られた行為であり、事実上黙認されることが多い。

こうなると今の時代に必要なのは、自分の身に何かが起きる前にデジタル遺産をきちんと管理しておくことだ。いくつかの具体的な方法をここに記してみよう。

まずは、現状の確認から。自分のパソコンやスマートフォンの中に何があるかを把握して、全てのアカウントやパスワードを含むデジタル遺産の目録を作る。そして「家族に託すべきもの」と「人に見られたくないもの」を分けておく。

前者はスマホやパソコンのパスワード、ネット口座といった財産関連のIDやパスワードなど。こうした情報は紙に記して渡しておくか、家族が見つけられるような場所に保管しておくのが確実だ。友人や仕事関係の住所録、家族に残したい写真や動画は、デスクトップなどの分かりやすい場所に保管するのがいいだろう。

次に、オンラインの管理ツールを利用する。前述したグーグルのアカウント無効化管理ツールや、フェイスブックの追悼アカウント管理人を設定してみよう。一定の期間にアカウントの利用がなければ、データを自動削除してくれるサービスもある。いったん削除したものは絶対に復元できない設定のものもあるので、他人に知られたくないデータがあるときには便利で安心だ。

3つ目は、デジタル遺産を全てまとめた遺産相続書類を簡単に書いておくことだ。あなたのアカウントにアクセスする受託人になってほしいのは誰か、その人にはどの程度のアクセス権限を持たせたいかなどを考える。スマホやパソコン、ネット口座などのIDやパスワード情報はこうした書類と一緒に保管しておくのもいい。

ちょっと退屈で、嫌な作業かもしれない。誰だって、自分が死ぬときのことなんて考えたくはない。そしてもちろん、これは法律的な助言ではない。それでも、デジタル遺産の相続計画があれば、もしものときに家族や友人にとっては大変な助けになる。

<本誌2018年7月24日号「特集:スウェーデン式終活」より転載>

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ナオミ・カーン、佐伯直美(本誌記者)

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