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バーチャル世界で死後も永遠に生きる

ニューズウィーク日本版 2018年8月3日 19時0分

<ネット上にアバターを作るなど、デジタル時代らしい追悼と終活が広がる>

インターネットが永遠の命をもたらす――ジョニー・デップ主演の14年のSF映画『トランセンデンス』の話ではない。ユーザーを「永遠に生き続けさせる」オンラインサービスが登場しているのだ。

エターニ・ミーという新興企業が提供しているのは、故人を「バーチャル化」し、死後も子孫とコミュニケーションを取れるようにするサービス。具体的には、ユーザーが電子メールやフェイスブック、ツイッターなどでオンライン上に残した情報を全て抽出し、その人の外見と癖を再現した「バーチャル・アバター」を作る。「人が死後に残すものを自分で整理する」手助けをしたいと、マリウス・ウルサク共同創業者兼CEOは言う。

登録したユーザーは、既に4万人以上に上る。マサチューセッツ工科大学(MIT)の起業家育成プログラムでこのアイデアを発表したとき、「130のアイデアの中で一番クレイジーだったけれど、一番評価が高かった」と、ウルサクは振り返る。「有望なアイデアだと思えた」

エターニ・ミーだけではない。デジタルテクノロジーを活用して、死者を追悼する新しい方法が続々と生まれている。「昔は遺影に話し掛けたり、墓地に足を運んだりしたものだ。最近はテクノロジーの力により、新しい追悼の形が生まれている」と、シエナ・カレッジ(ニューヨーク州)のカーラ・ソフカ教授は言う。

香港では10年に、世界初の公営サイバー墓地が創設された。遺灰は所定の場所にまき、故人の専用ウェブページを作る仕組みになっている。最大の狙いは、深刻な墓地不足を解消することにある。この埋葬方法が選択された割合は、10年には全体の4.6%にとどまっていたが、17年には約12.9%に達した。

人々が死と向き合う手助けに

もっとも、世界最大の「サイバー墓地」は私たちがよく知っている場所にあるのかもしれない。

フェイスブックに存在する死者のアカウントは3000万以上。死去するユーザーは毎日1万人を超える。そこで、フェイスブックは09年に追悼アカウントのサービスを開始した。死去したユーザーのアカウントにはログインできなくなり、それをいわば「永遠の礼拝所」にする。残された人たちはそこにコメントを書き込んだり、死者にメッセージを送ったりできる。

シアトルの墓石会社クワイリング・モニュメンツは、リアルとデジタルを融合し、「生きた墓石」という商品を販売している。墓石のQRコードをスマートフォンで読み込むと、故人のウェブサイトにアクセスできる。

アメリカ人は「死について語ることを嫌う傾向がある」と、同社のオーナー、デービッド・クワイリングは言う。自分の死後のためのウェブサイトを作成する機会を用意することで、人々が死を受け入れる手助けができればうれしいと、同社は考えている。



オーストリアのオンライン葬儀会社アスペトスは、コミュニティーの力で遺族を慰めようとする。共同創業者のイェルク・バウワーは母親の葬儀を終えた後、悲しみを癒やすのに役立つものをオンライン上で探したが、「ほとんど何も見つからなかった」と言う。そうしたニーズに応えるために06年にアスペトスを設立した。

同社が提供する故人用ウェブページは誰でも閲覧できるようになっているので、悲しみの気持ちが多くの人に共有される。「国内のどこかで子供が亡くなれば、全く別の地域の人がお悔やみのコメントを書き込む」と、バウアーは言う。

しかし、こうしたサービスが実物の墓石に取って代わる日は当分来ないと、バウアーは考えている。「そこに死者が眠っているという物理的な場所を欲する気持ちはなくならない」

「ほとんどの人にとって最も大切なのは、忘れられることへの恐怖だ」と、エターニ・ミーのウルサクは指摘する。その点では墓石の時代も、バーチャル・アバターの時代も人が求めるものは変わらないのだろう。

<本誌2018年7月24日号掲載>

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カイル・チャイカ

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