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強気一辺倒だったトランプに起きた「異変」とは - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年8月28日 15時0分

<反目していたマケイン上院議員の訃報を受けて、対応がコロコロ変化したトランプ。ロシア疑惑追及の展開を受けてさすがに弱気になっているのか>

先週の25日(土)、ここ数年、悪性の脳腫瘍との闘病を続けてきたジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州選出)が亡くなりました。その前日には「本人が加療停止を判断」というニュースが報じられ、「Xデー」が近いというムードが全米に広がっていましたが、それでも訃報のショックは大きなものがありました。

マケインは、トランプ大統領に容赦のない批判を続けてきました。なかでも2017年7月に治療中のアリゾナから上院本会議場に駆けつけて、大統領が提案した「オバマケア(医療保険制度)廃止法案」に対して、「親指を下に向け」て堂々と反対票を投じたのは伝説になっています。

そのマケインの訃報を受けた大統領は、しばらく何も発言せず、ツイートもしないで「沈黙」を守っていました。側近との間でどんなやりとりがあったのかは不明ですが、とにかく不自然な沈黙であり、これに対しては徐々に批判が上がっていました。

やがて短いツイートがされたのですが、「マケイン上院議員のご遺族にお悔やみを申し上げます」というだけの極めて形式的なもので、これはこれで批判されています。

一方で弔意を示すために、ホワイトハウスの屋根に掲げてある星条旗は、一旦は半旗にされたのですが、どういうわけか27日の朝になると元に戻され、このことも厳しく批判されていたのです。

事態が「正常化」したのはその27日月曜日の午後からです。大統領は「見解は違ったが、マケイン議員のことは尊敬している」とか「マケイン議員の我が国へのあらゆる貢献に対して、敬意を表する」という、ようやく故人と向き合うような発言をしていました。また、星条旗についても半旗に戻されました。

マケインと言えば、ベトナム戦争の際に捕虜となってハノイへ送られ、拷問を受けるなど辛酸を舐めた経験が有名ですが、その点についてトランプ大統領は、大統領選の途中で「捕虜になった人間がどうして英雄なのかわからない」と発言したのが有名です。アメリカの軍隊における価値観を踏みにじる姿勢は、軍関係者の憤激を買ったわけですが、もちろんマケイン自身も許していません。

そんな確執があったので、大統領がマケインの死に対して、素直な姿勢を取れないというのは、(それが大統領として相応しいかは別として)理解することはできます。



ですが、今回のように「無視」→「遺族への短い形式的な弔意」→「故人への弔意」と発言が変わったこと、また星条旗の扱いについても「半旗」→「元に戻す」→「批判を浴びて再び半旗に」と対応が変化したこと、これは異例なことだと思います。というのは、貿易戦争から移民政策まで「どんなに極端な政策でもブレない」ということを売りものにしてきた、この大統領「らしくない」からです。

異例ということでは、8月22日にFOXニュースの単独インタビューを受けた際の大統領の発言もおかしなものがありました。大統領は、自分から「私を弾劾することなんてできない、やったら市場はクラッシュする」という発言をしています。一見すると強気とも取れますが、大統領自身の口から「弾劾(impeachment)」という言葉が飛び出したのは、まったく異例なことです。

トランプにしては珍しい「弱気」と見ることができます。多くの側近が司法当局と取引して、大統領周辺のカネの流れなどについて証言を始めている中で、多くのスキャンダルを正面突破する自信がなくなってきたのかもしれません。

もちろん現時点ではFBIやムラー独立検察官が、大統領をそこまで追い詰めることが可能なのか、まだまったく先行きは不透明です。また、11月の中間選挙へ向けた与野党の選挙戦もほとんど拮抗しており、どちらが勝つかは見えません。

ですから今後の政局に関しては、それこそ「一寸先は闇」なのですが、少なくとも「ブレることなく、常に自信満々」だった大統領に「異変」が起きつつあるというのは注目するべき点だと思います。

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