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紛争続くウクライナ東部、親ロ派リーダーを爆殺したのは誰か

ニューズウィーク日本版 2018年9月3日 19時0分

<ロシア政府の「工作員」ともされるザハルチェンコは権力を使って私腹を肥やしていた>

ウクライナ東部ドネツク州で31日、カフェで爆発が起き、親ロシア派武装勢力の指導者が死亡した。

地元メディアによれば、死亡したのはウクライナからの分離独立を目指す「ドネツク人民共和国」首相のアレクサンドル・ザハルチェンコ(42)。他に2人が負傷した。

ドネツクを含むドンバス地方の独立を求める親ロシア派とウクライナ政府との間では2014年以降、武力紛争が続いている。ロシア政府は、先週の事件を受けてすぐにウクライナ政府の犯行だと非難した。

「(停戦を定めた2015年の)ミンスク合意を実行に移し、紛争を解決する方法を探す代わりに、ウクライナ政府の好戦派はテロを行い、この地域の困難な状況をさらに悪化させている」と、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は声明で述べた。

ウクライナ東部の武力紛争に終止符を打つことを目指したミンスク和平プロセスには、ウクライナとロシア、アメリカ、EU(欧州連合)、OSCE(欧州安保協力機構)の代表者が参加。これまでのところ一時的な停戦にはこぎ着けたものの、長期的な解決の処方箋は見つかっていない。OSCEは停戦監視団を派遣しているが、今も小規模な衝突や砲撃は続いており、これまでに紛争による死者は1万人を超えたとみられる。

犯罪者にロシアの武器と資金が渡った

「ロシア政府は、先週の爆発はウクライナ政府の仕業だったと主張している。ウクライナの情報当局にこの種の攻撃を実行する能力があることは間違いない。だがロシアも(ウクライナの首都)キエフで暗殺を行ってきた。死者は数人か、もっと多いかも知れない」と、アメリカの駐ウクライナ大使だったジョン・ハーブストは本誌に語った。

停戦合意が成立しても、「停戦ラインを挟む砲撃がなかった日は1日もなかった」と、ハーブスとは言う。「砲撃の大半はロシアによるものだが、攻撃は両側から来る。ドンバスでは毎週のようにウクライナ人が犠牲になっている」

ザハルチェンコの死は、ウクライナ東部情勢の混乱ぶりを示していると指摘するアナリストもいる。現地では武装勢力同士がロシアへの影響力をめぐって対立している。

「ザハルチェンコの暗殺は、ロシア占領下のウクライナ東部の不安定さを示している。ザハルチェンコはロシア政府の工作員で、彼の元にはロシアから多額の資金や軍事力が流れ込んでいた。

それで大きな権力を手にしたのだが、ザハルチェンコはその権力を使って私腹を肥やしていると多くの人が考えていた。

彼の率いた自称『政府』と武装勢力の大部分を構成していたのは、長年犯罪に関与してきたはみ出し者たちで、ロシア政府の支援の下、かなりの武器や資金を手にした」と、シンクタンク「大西洋協議会」のエイドリアン・カラトニッキー上級研究員は本誌に語った。



だが、ザハルチェンコの死が不安定化を招くことはないだろうと、専門家は言う。「ウクライナ東部で起こることはすべてプーチンとロシア当局の命令にだからだ」と、カラトニッキーは言う。

カラトニッキーは2017年11月にもう1つの親ロ派組織であるルガンスク人民共和国でロシア政府の支援を受けたクーデターが起き、トップがロシアに忠実な人物に取って代わられたことを指摘。「ロシアの指揮系統に完全に服従し続ける人物をロシアは間違いなく手配するだろう」と述べた。

ザハルチェンコは東部で親ロ派がウクライナからの独立を宣言する以前は炭鉱の電気工として働いていた。そもそも彼を東部の指導者として選んだのはロシア政府だった可能性もある。

「彼はロシア政府の手先だ。戦闘でのあらゆる人々の死の責任に加え、彼らはウクライナ人捕虜を拷問している。まったく唾棄すべき人間だった」とハーブストは本誌に述べた。

(翻訳:村井裕美)


クリスティナ・マザ

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