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【高潮予測動画】大型ハリケーン襲来、囚人15万人は刑務所に置き去り

ニューズウィーク日本版 2018年9月14日 14時20分

<囚人は勝手に死ね? 州は、ハリケーンの進路上にある危険な刑務所に15万人の服役囚を残していくことを決めた>

大型ハリケーン「フローレンス」は現地時間14日にも米南東部の沿岸に上陸する見通しで、沿岸住民100万人以上に避難命令が出ており、数日前から避難を始めている。

しかし、ノースカロライナ、サウスカロライナ、バージニアの各州の刑務所に収監されている15万人の服役囚は、自分の意思で避難できる状態ではない。そして当局も囚人を避難させないと決めた。刑務所はフローレンスの進路のど真ん中にあるだけに、洪水や孤立、物資の不足といった危険に直面する可能性もある。



サウスカロライナ州では、ヘンリー・マクマスター州知事が今週11日に「州の住民の生命を危険にさらすようなことはしない。ただの1人も」という声明を出したのに、囚人を避難させないのはどういうことかと、注目されている。

州当局は今週初め、避難命令区域にあるマクドゥーガル刑務所の刑務官と服役囚650人はそのまま刑務所に残ると発表した。

「過去の例では、ほかの場所に移動するより刑務所内に残っている方が安全だった」と、州広報官のデクスター・リーはウェブメディアの「バイス・ニュース」に話している。

避難区域外で囚人を移送する自治体も

ハリケーンが直撃する見通しのバージニア州沿岸部の刑務所も、囚人を避難させていない。地元紙の取材に対して州政府保安官局は、避難地域にある3つの刑務所が囚人を避難させない方針だと語った。

一方では、市内の刑務所のために2週間分の食料と医薬品の提供を要請したり、避難地域からは外れているが、万一洪水が発生したときのため沿岸部にある刑務所の囚人約1000人を内陸部に移した自治体もある。

だが、それは全体から見れば少数派だ。ノースカロライナ州当局はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して、州内55の刑務所のうち避難させるのは10カ所以下だと話している。州政府担当者のジェリー・ヒギンズは本誌の取材に対し、現在避難中の刑務所は1カ所だけで、他は知らないと回答した。



ノースカロライナ州沿岸の家屋では13日に早くも高潮被害が Eduardo Munoz-REUTERS

専門家は、ハリケーンの進路上に囚人を取り残すことは、不必要な危険を招くし、州の理念にも反すると指摘する。

「マクマスター知事の声明は深い意味がある。最大級のハリケーンのさなかに囚人を刑務所に閉じ込め、溺れる危険に晒すことの意味ははっきりしている。すべてのアメリカ人の生命を平等に扱わないことだ」と、ミシガン大学の歴史学教授ヘザー・トンプソンは本誌の取材に答えている。

「死刑判決を受けてもいない囚人の男女を、ハリケーンのさなかに刑務所に閉じ込めておくことは、死刑にするのと同じことだ。自然災害の際に囚人を高台に避難させるかどうかの判断は、知事とか州政府職員が個人が決めるべきものではない。基本的人権の問題なのだから、個人の裁量ではなく法律や政策でしっかりと定めるべきだ」

昨年8月にテキサス州を襲ったハリケーン・ハービーでは、州内の囚人が食料、水、医薬品が枯渇するなかで刑務所に閉じ込められた。囚人たちは、部屋に糞尿まみれの水があふれ、トイレやシャワーも使えなかったと証言しているが、州政府はこうした事実を否定している。

過去にも、ハリケーンなどの災害時に避難していない囚人が危険な状況に陥る事例はあった。人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2005年8月のハリケーン・カトリーナ災害では、ルイジアナ州のオーリンズ・パリッシュ刑務所に600人の囚人が取り残された。1階の部屋に収容されていた囚人は洪水で胸の高さまで水に浸かったが、救出されたのは4日後だった。


ダニエル・モリッツラブソン

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