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米エコノミストら「2020年末までに景気後退に突入」を予想

ニューズウィーク日本版 2018年10月4日 14時30分

<中国との貿易戦争をはじめとしたトランプ政権の貿易政策が景気悪化、悪くすると戦争につながるとの見解だ>

全米企業エコノミスト協会(NABE)が2018年8月から9月にかけて実施した調査によれば、アメリカの企業エコノミストの過半数は、次の大統領選の時期である2020年末までに景気の悪化が始まると予想している。調査に回答した51人の過半数が、貿易政策が景気後退の引き金になると予想した。

景気後退が始まる時期について、回答者の約10%は2019年からと予想し、56%は2020年からと予想。36%は、深刻な景気後退が始まるのは2021年以降と回答した。

アトランタ連銀の研究部長でNABEの調査主任であるデービッド・オルティグは声明の中で、「明らかに、貿易問題が回答者の見解に影を落としている」と述べた。

ドナルド・トランプ米大統領はヨーロッパ、アジア、メキシコおよびカナダとの主な貿易協定を見直しに取り組んでおり、一歩も譲歩しない中国とは貿易戦争が激化している。

10月1日、トランプは34カナダとメキシコとの間で北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の合意に達したと発表したが、この合意は中国をさらに追い詰める可能性がある。

ジャック・マーが米中戦争を警告

サンライフ・インベストメント・マネジメント(運用資産額470億ドル)のデック・ムラーキー業務執行取締役はブルームバーグの取材に対して、「数カ月前には多方面で貿易相手国・地域に攻撃を仕掛けていたアメリカだが、今は中国に焦点を絞ることができるようになった」と語った。

アメリカはこれまで中国に対して3回にわたり制裁関税を課しており、今では2500億ドル相当の中国製品が対象だ。中国も報復関税の対象となる米国製品を1100億ドルに拡大した。

トランプは10月1日、早くも「第4弾」の制裁関税発動も近いかもしれないと示唆。さらに通商問題をめぐる中国との協議は「時期尚早だ」と言った。

中国のネット通販最大手アリババの創業者ジャック・マーも、10月2日、ジュネーブで開かれたWTOの公開フォーラムで、米中貿易戦争は軍事的な戦争につながりかねないと警鐘を鳴らした。「貿易が止まると、ときに戦争が始まる。つまり貿易は本来、戦争を止めるためのものだ」と、マーは講演で語った。サウスチャイナ・モーニングポストが伝えた。「貿易は信頼を醸成するためのもので、互いに争うための武器ではない」

米ハッチンズ財政・金融政策センターのディレクターで米ブルッキングズ研究所の上級研究員でもあるデービッド・ウェッセルも、トランプ政権の対中貿易政策が米経済に壊滅的な影響を及ぼし、さらには物理的な戦争を招く可能性もあると主張する。

ブルッキングズ研究所の8月の分析報告書の中で「新興経済大国がアメリカのような覇権国家に挑む際には、経済的・政治的・外交的・さらには軍事的な紛争が起こる可能性が高く、そうした紛争は時に誤算によって急激にエスカレートしかねないことが過去の例から分かっている」と指摘している。



またウェッセルは、貿易戦争は輸出入以外の分野にも影響を及ぼしており、いずれ株式市場にも打撃をもたらすだろうと言う。「投資家たちが『事態が悪い方向に向かっている』と判断すれば、あっという間に株価は急落する」と彼は指摘する。

トランプはこれまでずっと、大統領に就任してからの一番の業績に経済の繁栄を挙げてきた。10月1日にも「米経済はこれまでにない好景気に沸いている。失業保険の申請件数は50年ぶりの低水準だし、株価は史上最高値を記録している。私が大統領に選出されて以降、50%以上の上昇だ」と語っている。2020年の大統領選の前に景気後退が始まれば、再選を目指すトランプにとっては大きな打撃となるだろう。

アメリカの景気拡大は現在、史上2番目の長さに達しており、エコノミストたちは少なくとも来年までは経済成長が続くだろうと楽観視している。景気の悪化が差し迫っている兆候もないことから、米連邦準備制度理事会(FRB)も9月末、今後2年間の成長率見通しを上方修正したばかりだ。

(翻訳:森美歩)

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