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米中武力衝突の危険高まる、核使用の可能性も──米論文

ニューズウィーク日本版 2018年10月18日 16時10分

<すでに「一種の冷戦状態」にあるといわれる米中関係。アフガニスタン戦争以降の米軍の作戦を核保有国の中国にあてはめると、核使用もありうるという>

米ジョージタウン大学の安全保障の専門家が、アメリカと中国が武力紛争に突入する恐れがこれまでになく高まっており、それが核戦争へと拡大する可能性も多くのアナリストが考えるより高いと論文で警告した。

この専門家はジョージタウン大学外交政策大学院のケイトリン・タルマッジ准教授(安全保障)。外交専門誌フォーリン・アフェアーズの11~12月号に掲載された論文で、米中間で軍事的緊張がエスカレートしていく恐ろしいシナリオを説く。

「こうした衝突が核戦争になる確率は、大半の政策立案者やアナリストが考えるよりも高い」とタルマッジは書く。ただし「米中間で戦争が起きる可能性は今も低い。だが、以前ほど蓋然性は低くない印象だ」という。

タルマッジによれば、米中両国のアナリストの多くは総じて、核兵器を使った武力衝突の可能性を完全に否定している。だが近年の紛争で米国防総省が好んで採用してきた戦術を分析すると、「短期間に敵の主要な戦力を最少の犠牲でつぶすために、相手の領土の奥深くを」叩くことが米軍の戦略の1つになっているという。「国防総省はアフガニスタン、イラク、リビア、セルビアとの戦争でこの手法を確立したが、どの国も核保有国ではなかった」とタルマッジは書いている。

対中国戦では核を叩くことが避けられない

中国では核兵器と通常兵器の運用は密接に絡み合っている。つまりアメリカは早い時期に、意図的であろうとなかろうと中国の核戦闘能力を標的にすることになるだろう。中国はこの可能性を考慮し、破壊される前に核兵器の先制使用を考えるかも知れない。

タルマッジによれば、中国が台湾侵略に動くならそうしたシナリオが浮上する可能性は大いにある。また、南シナ海における領有権争いが武力紛争に発展する可能性もある。この海域では米中海軍の緊張が急速に高まっている。

そうしたシナリオが現実のものとなる確率はけっして高くはない。それでも米中間の緊張の高まりを背景に危険性は高まっている。「一瞬で地域や世界に破滅的な影響を与えかねないリアリティーに思い至れば、米中の指導者は戦争に訴えるのではなく、政治的、経済的に軍事的対立を解決する道を探る気になるはずだ」と、タルマッジは論文を締めくくっている。



おりしもトランプ政権は、中国が中間選挙への干渉を図っているとして、増大する脅威への懸念を訴えている。影響力の拡大を狙う中国政府の野望は多くの専門家の認めるところだが、一方で中国が米選挙に直接干渉しようと画策している証拠はほとんどない。

だが、中国が他の方法で介入を試みているのは専門家も認めるところだ。

ロイター通信によれば、情報セキュリティ企業クラウドストライクのドミトリ・アルペロビッチ最高技術責任者も先日、中国人ハッカーの活動が活発化しているとの見方を示した。中国のハッカーは、アメリカや西ヨーロッパ全域の政府機関にとって「最大の脅威」になっているという。

FBIのクリス・レイ長官も10月10日、上院国土安全保障・政府問題委員会で証言し、中国はアメリカおよびその国益にとって「非常に重大な脅威」になっていると述べた。「中国はさまざまな面で、わが国が直面する防諜上の最も広範で複雑で長期的な脅威と言える」

CIAの東アジアミッションセンターの幹部であるマイケル・コリンズは7月、アスペン安全保障フォーラムにおいてアメリカが現在直面している最も深刻な脅威は中国からのものだと発言した。またコリンズは、世界における現在の中国の行動は「基本的には一種の冷戦」と定義できると主張した。

(翻訳:村井裕美)

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