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サウジ皇太子、記者殺害は「悲痛」「犯人は裁きを受ける」と発言

ニューズウィーク日本版 2018年10月25日 16時45分

<サウジアラビアの記者がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件について、黒幕の疑いがあるムハンマド皇太子が公の場で初めて事件に言及した>

サウジアラビアの記者がトルコのサウジ総領事館で殺害された事件で、殺害を指示したと疑われるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は殺害を非難し、事件はサウジを傷つけたと言った。

皇太子は10月24日、首都リヤドで開かれていた国際投資会議「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ」(別名「砂漠のダボス会議」)で登壇し、公の場で初めて事件に言及した。10月2日に行方不明になった反体制ジャーナリスト、ジャマル・カショギがサウジの総領事館事件で殺害されていた疑いが濃厚になるにつれて、各国要人や大企業トップが相次いで欠席を表明。そんななか、事件について初めて口を開くムハンマド皇太子が何を言うのか、世界の注目が集まった。

サウジは事件発覚当初、カショギはトルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館を「出て行った」と主張したが、10月20日には一転して、総領事館内でけんかの末に死亡したと発表した。サウジ王室は一貫して殺害指示を否定し、真相究明にあたるトルコ当局に協力すると言ってきた。

「事件はすべてのサウジ国民と世界中の人にとって非常に痛ましい。非道な犯罪で、正当化できない」と、皇太子は聴衆に語った。「犯人は間違いなく裁きを受ける」

だが世界はそんな言葉を信じていない。皇太子の肝いりで、「砂漠のダボス会議」とも呼ばれる投資会議には、フランス、ドイツ、オランダ、イギリス、アメリカの財務相らが参加を見送った。エマニュエル・マクロン仏大統領はイギリスやドイツとともに、事件の全容が明らかになるまでサウジへの政治的訪問を中止する、と発表した。

トランプも態度を硬化

それでもスティーブン・ムニューチン米財務長官は10月22日にリヤドを訪問して皇太子と会談。翌23日に同地で開かれた「テロリスト資金摘発センター」(TFTC)の会議にも出席した。ドナルド・トランプ米大統領は当初はサウジの責任追及に及び腰だったが、その後はサウジ政府が殺害に関与していたとすれば「非常に重大」な結果になると警告。10月23日には、この事件を殺害を隠蔽しようとする「史上最悪の隠蔽」と厳しく非難した。

その翌日、トランプは米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、皇太子が事件の黒幕である可能性に初めて言及した。「皇太子はサウジ政府で相当の実権を握っている。誰かが動いたとすれば、彼だろう」

その皇太子が10月23日の会議初日に15分ほど姿を現すと、アラブ同盟国などの首脳らが総立ちで拍手を送った。皇太子は出席者と談笑し、セルフィー(自撮り)にも応じた。その数時間前には、彼は父サルマン国王とともにカショギの息子たちに面会し、哀悼の意を伝えていた。



皇太子は王室の後継者に指名された昨年以降、権力の一極集中を進め、国王からサウジの情報機関再編のための委員会のトップにも起用された。サウジ政府は事件を受けて、情報機関の副長官や政府高官ら5人を更迭。カショギの殺害に関与した疑いでサウジ国籍の18人を逮捕したと明らかにした。

カショギはかつてサウジ国内で活動する大物記者だったが、昨夏に渡米し、米紙ワシントン・ポストなどへの寄稿でサウジ政府を批判していた。言論抑圧などのほか、よく批判していたのが、サウジ主導でアメリカなどの有志連合軍も参加する、隣国イエメンへの軍事介入だ。サウジはイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」を標的にした空爆で、多数の民間人犠牲者を出したとして批判されている。

(翻訳:河原里香)


トム・オコナー

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