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中国の社会信用システム、「マナーの悪い飼い主は犬を没収」の恐怖

ニューズウィーク日本版 2018年11月1日 16時10分

<マナー違反をなくすというのは建て前に過ぎない。悪名高い中国の「社会信用システム」がいよいよ国民監視モンスターの本性を表し始めた>

全国で「ソーシャル・クレジット・システム(社会信用システム)」の導入を進める中国で新たに、ポイントをすべて失うと飼い主から犬を取り上げる制度が始まった。飼い主が糞を片付けないなどの苦情に応えるのが表向きの理由だが、マナー違反が罰せられるだけでなく、飼える犬の頭数や外を散歩できる主人の年齢までが規制の対象になる。

いち早くこの制度を導入した山東省の省都・済南市では苦情が大幅に減ったため、他の都市も相次いで実施に踏み切っている。この制度の下では、飼い犬はすべて登録を義務付けられ、飼い主1人に付き、1頭しか飼えない。

犬はQRコードの付いた首輪を付け、最初に12ポイントを与えられる。

犬の糞を道路に放置したり、リードなしで犬を散歩させるなどルールに違反した飼い主を見つけると、警官にポイントを減らされる。この制度では、公共の場で犬を連れて歩けるのは、18歳以上の成人に限られる。公共の場にある噴水で犬を遊ばせたり、犬を連れて電車やバスを利用するのもご法度だ。公園、広場、学校、病院、ショッピングセンター、ジム、ホテル、レストラン、市場にも犬は入れない。

制度を歓迎する声も

軽度な違反なら、飼い主が罰金を徴収されて、1~2ポイント失う程度で済むが、違反を繰り返せば、1回の違反で6ポイント奪われることもある。12ポイントすべて失ったら、犬は当局に押収される。ただし、飼い主が研修を受けて試験に合格すれば、犬を引き取れる。ポイントをすべて失う前に、飼い主が動物シェルターなどの地域奉仕活動に参加すれば、それに応じてポイントが還元される。

「(この制度を)適切に実施し、研修を行えば、飼い主全体の質が高まる」と、北京でラブラドールレトリバー飼う35歳の女性コンサルタントは英紙テレグラフに語った。これまでマナーに無頓着だった飼い主も、訓練施設で犬をしつけるようになるので、自分の犬がよその犬に襲われるリスクも減るし、街をうろつく野犬も減り、人が噛まれる被害も減るだろうと、彼女はこの制度を高く評価する。

国営の英字紙チャイナ・デーリーは今年8月、済南市では8割の飼い主がリードを使うようになり、制度が実施された2017年1月以降、犬に噛まれたり吠えられたりしたという苦情が65%減ったと報じた。それまでに罰金を科された飼い主は約1430人、12ポイントすべてを失った飼い主は122人で、その大半が研修を受けて、押収された犬を取り戻していた。



低スコアなら「二級市民」扱い

この採点制度、中国政府はペットだけでなく国民生活の隅々に浸透させようとしており、国内外から激しい批判を浴びている。

中国政府が市民の行動を監視し、評価して、それらのデータを一元管理する構想を発表したのは2014年。評価が高い人は報酬を受け、低い人は罰せられる。特にスコアが高いエリートはさまざまな特典を享受でき、低スコアの人はローンを組めない、公共交通機関を利用できないなど、事実上の「二級市民」扱いになる。当局は2020年までに14億人の国民全員をこのシステムに組み込む計画だ。

システム構築の目的は、人々が信頼で結ばれた調和のとれた社会を築くこと、と説明されているが、ビッグブラザーの監視システムを地で行くような制度は、独裁支配の強化に役立つだけだとの声も聞かれる。言うまでもなくネット上の書き込みも監視の対象になり、当局が「好ましくない」コメントと判断すれば、投稿者はスコアを減らされる。

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ジェイソン・レモン

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