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中間選挙後の米政治は「ねじれ議会」でますます不透明に - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年11月8日 16時0分

<議会上下院で多数派が異なる「ねじれ議会」の結果を受けて、トランプがさらに強硬な姿勢に出るか、それとも対話路線へと転向するか、米政治の先行きはさらに不透明>

アメリカの中間選挙は、上院が共和党の過半数、下院が民主党の過半数という、大方の予想通りの結果となりました。ですが、内容を見てみると「上院は共和党が50から51という予想が実際は52から54(本稿時点では2議席が未確定)へと上乗せ」「下院の民主党議席数も大勝とは言えないレベル」ということで、共和党は予想外の善戦をしたと見ることができます。

善戦の理由ですが、何と言っても保守派のカバナー判事を最高裁判事として送り込んだことで、宗教保守派をほぼ100%味方に引き入れた一方で、大統領が精力的に遊説を行って、移民排斥をテーマに右派ポピュリズムをエスカレートさせたことの相乗効果が大きいと思います。

通常は40%前後の投票率である中間選挙において、47〜49%に達したという今回の高投票率は歴史的です。ですが、トランプ政治への批判や危機感から投票所へ向かった民主党支持者だけでなく、宗教保守派とトランプ派の投票率も高かったわけで、その結果として、フロリダなどの中道州などでは稀に見る接戦になりました。

そこで注目されるのが、今後の政局はどうなるのかという問題です。これでトランプ政権が勢いづいて「より極端な政治」に向かう可能性もあります。この選挙を勝利であり、政権への信任だと見るのであればそうなるでしょう。その一方で、強い権力を持つ下院を民主党に奪われたことで、対話を中心とした慎重姿勢を見せる必要もあるという指摘も多くされています。

そんなわけで、選挙から一夜明けて、社会も政界もとりあえず「新しい時代の方向性を模索」し始めたところです。NYの株価はジリジリあげて、結果的に大幅上昇となりましたが、とりあえず「選挙結果は市場の予想の範囲内」という安心感がベースにはありました。

ところが、その選挙翌日の11月7日の午後になってワシントンに激震が走りました。かねてから大統領との確執が伝えられていた、ジェフ・セッションズ司法長官が更迭されたのです。「大統領の要請による辞任」ということですから、要するにクビということです。

理由としては、セッションズ氏は大統領選の初期段階に上院議員としては最初にトランプを支持したことの論功行賞として、司法長官という要職に指名されて就任したのですが、「ロシア疑惑」が発生するとともに「自分は早期からトランプ陣営で選挙戦に関与していたので、ロシアとの接触など利害関係がある」として、捜査の指揮権を「司法副長官」に委任してしまったのです。これに対して、大統領は「大統領を守らず自己保身に走った」として、ネチネチと批判を繰り返していたのでした。



今回の選挙で上院の過半数を共和党が占めれば、「セッションズ氏の後任を指名しても、上院に拒否される可能性は薄くなる」として、同氏を堂々と解雇できるという指摘は選挙運動中からされていたのでした。

その予想が的中したわけですが、トランプ大統領は強気な作戦に出ました。司法長官というのは、日本で言えば「法務大臣と検事総長が合体した」ような強力な権限を持つポストです。ですから空席は許されず、セッションズ氏の辞任後、正式な司法長官が上院で承認されるまでの間、代行を置かねばなりません。

その司法長官代行には、ローゼンスタイン司法副長官をあてるのが常識的と考えられます。ですが、トランプ政権に対して是々非々で臨むローゼンスタイン氏を嫌ってか、大統領は別の人物を指名しました。それは、セッションズ氏の補佐官であったマシュー・ウィテカー氏です。

このウィテカー氏は、「ロシア疑惑は魔女狩りだから捜査は中止すべき」とか「トランプの長男がロシア政府の息のかかった女性弁護士と会っていた件も全く問題はない」などと、徹底したトランプ擁護発言を繰り返してきた人物です。

では、このままウィテカー氏を正式な司法長官に任命して、上院の審査を受けるようにしたらどうかというと、さすがに「現在進行中の懸案について、大統領の利害を一方的に代弁し続けた」ということで、司法省の倫理規程に引っかかるらしく、それは無理筋だというのが一般的な見方です。

そうであっても、とにかく選挙の翌日に司法長官を更迭し、極端に自分寄りの人物を代理に指名するやり方は極めて強引です。まるで、下院の過半数を確保したことから、国政調査権を発動して「ロシア疑惑」などの暴露を続けようという民主党を挑発するような姿勢です。

選挙後のトランプ政権は「もう少し常識的に政権運営をするだろう」という見方、ないしは期待感はありました。例えば、景気後退が怖い中で、選挙さえ終われば中国との通商交渉はするでしょうし、インフラ整備問題などで下院・民主党との協調も模索される可能性は確かにあります。

ですが、分断を煽り、日替わりでニュースのヘッドラインの材料を提供してメディアを揺さぶってきたトランプ流の政治手法は、中間選挙という区切りを経ても終わりそうもありません。司法長官更迭とトランプ派の司法長官代行指名という事件は、ますます今後の政局への不透明感を強めることとなりました。

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