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北朝鮮のミサイル基地13カ所を特定、それでもトランプが「もはや核の脅威はない」と言い張る危険

ニューズウィーク日本版 2018年11月13日 13時50分

<歴史的な米朝首脳会談から5カ月。成果を強調するトランプの主張とは裏腹に北朝鮮の非核化がまったく進んでいないことが裏付けられた>

北朝鮮は「もはや核の脅威ではない」と主張してきたドナルド・トランプ米大統領。だが新たな衛星写真からは、同国が今も弾道ミサイルの開発を続けていることが伺える。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば今回、これまで北朝鮮が公表していなかった約20カ所のミサイル基地のうち13カ所が特定された。衛星写真を分析した結果、山岳地帯に点在するそれらの施設は、今も稼働中であることがわかった。北朝鮮は6月の米朝首脳会談で「主要なミサイル研究施設の廃棄」を約束して大々的に報道されたが、それはほかの場所でミサイルの改良や開発を続けるための隠れ蓑だったようだ。

一連の弾道ミサイル関連施設の特定は、シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が11月12日に発表した報告書の中で明らかにしたもので、自分のお陰で北朝鮮の核はなくなったというトランプの主張と真っ向から対立する指摘だ。トランプは北朝鮮との関係改善を自らの外交政策上の最大の成果の一つと吹聴しているかもしれないが、アメリカは実のところ、北朝鮮の核武装の解除や非核化について、何ひとつ実質的な成果をあげていないということだ。

「作業は続いている」

新たな核実験やミサイル発射実験は1年近く実施されていないものの、米情報当局者たちは、北朝鮮はあらゆる種類のミサイルの研究を続けていると確信している。トランプは北朝鮮に対する制裁を維持することで、金正恩朝鮮労働党委員長を交渉の場に引き込むことができると考えているようだが、北朝鮮は中国とロシアとの貿易によって、制裁がもたらす最悪の影響を回避している。

CSISの報告書には、短距離ミサイルから米本土に到達する可能性のある長距離ミサイルに至るまで、それぞれ射程距離の異なるミサイルを備えた3つの「ミサイルベルト(ミサイル配備地帯)」の地図も含まれている。

最も懸念されているのが長距離ミサイルだ。北朝鮮がミサイルに確実に核弾頭を搭載させることができる能力があることはまだ証明されていないが、その達成に向けた微調整は行われているようだ。

報告書の著者の一人であるビクター・チャはかつて、ホワイトハウスが駐韓米国大使に指名を検討していた人物。だが北朝鮮へのアプローチをめぐりトランプ政権と意見が対立した後、候補を外された。

チャはニューヨーク・タイムズに対してこう語っている。「これらの基地が凍結されている様子はない。作業は続いている。誰もが危惧しているのは、トランプが金正恩の口車に乗って危険な取引に応じるのではないかということだ。つまり北朝鮮側が実験場1カ所を差し出し、そのほか幾つか廃棄しただけで、(非核化が前提のはずの)平和協定に応じてしまうのではないか、ということだ」



それでもトランプは「勝利を宣言し、自分は歴代の米大統領の誰よりも多くの成果を達成したと主張するだろう。その一方で脅威は変わらずに残ることになるだろう」と彼は指摘した。

米国務省はニューヨーク・タイムズに対して、大統領は「金委員長が完全な非核化や弾道ミサイル開発計画の廃棄などの約束を守れば、北朝鮮と国民にとって今よりずっと明るい未来が待っている」と確信しているとコメントした。

だがトランプが金との親密な関係をアピールしているにもかかわらず、北朝鮮は6月の米朝首脳会談で「合意された」非核化に向けた一歩を踏み出していない。核関連施設や保有する兵器、製造施設やミサイル基地の申告にも至っていないのだ。

また11月8日には、対米交渉を主導している金英哲(朝鮮労働党中央委員会副委員長)がニューヨークを訪れマイク・ポンペオ米国務長官と次の米朝首脳会談について協議する予定だったものの、北朝鮮側はこれを延期した。

こうしたなか、弾道ミサイルの開発は続けられている。報告書の共著者であるジョセフ・バーミューデスはこう指摘している。「北朝鮮はとてつもない労力を費やして、ミサイル関連施設を山間の各地に点在させる形で建設してきた。(これらの施設を)温存するためには、きわめて理にかなったやり方だ」

(翻訳:森美歩)

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デービッド・ブレナン

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