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「国境なき医師団」の移民救助船「アクエリアス」を伊当局が差し押さえ──病原菌を海にバラまいた容疑

ニューズウィーク日本版 2018年11月21日 16時3分

<移民の衣服や移民の治療に使った医療器具などの汚染物を海に不法投棄した、と当局は言うが、「医師団」はとんでもない偏見と反論>

イタリア当局は、NPO「国境なき医師団(MSF)」が運営する移民救助船「アクエリアス号」の差し押さえを命じ、MSFへの捜査も開始した。同船がゴミを不法投棄した容疑だという。当局側の主張によると、不法投棄されたゴミの中には衣服も含まれており、これらの衣服はHIVや結核菌、髄膜炎をもたらす菌で汚染されている恐れがあるというのだ。

シチリア島カターニアの検察当局はアクエリアス号の差し押さえを命じ、同時にこの船を運営しているMSFを訴追した。AP通信は訴追の理由について、50回近い難民救助活動の間に同船が蓄積した合計24トンに上る医療廃棄物や汚染された廃棄物を不法投棄したことだと報じている。

MSFによれば、アクエリアス号は現在フランスのマルセイユに停泊しており、イタリアの主権は及ばない。イタリアの司法当局は、アクエリアス号が同国の領海内に入ったところで、差し押さえを行うと述べている。

イタリア当局はMSFに46万ユーロ(約5900万円)の罰金の支払いを命じている。当局側はこの金額の根拠について、廃棄物の不法投棄によりMSFが支払いを免れた処理費用に相当する額だとしている。

「汚染された衣服」が危ない?

さらにイタリアにあるMSFの銀行口座を凍結し、24名の関係者について捜査を開始した。対象者には、アクエリアス号の船長エフゲニー・タラニン、および、MSFベルギーでイタリア関連ミッションの副責任者を務めるミケーレ・トライニティが含まれている。

AP通信の報道によると、検察当局は声明で、新たにヨーロッパに到着した移民の中には、疥癬(かいせん)やHIV、結核、髄膜炎の患者がいると主張。こうした病気を持つ患者が着ていた「汚染された衣服」が、感染を広げる恐れがあるとしているという。

こうした検察側の主張に、HIV/エイズに関する複数の啓蒙団体は激しく反発している。イギリスのHIV支援団体、ナショナル・エイズ・トラストのデボラ・ゴールド会長は、英ガーディアン紙に対し「衣服にはHIV伝染のリスクはそもそもなく、そのような事例も1つも報告されていない」と指摘した。

「このような主張は、エイズに対する誤った情報がまかり通っていた1980年代でさえ、荒唐無稽として退けられていただろう。2018年の今ならなおさらだ」とゴールドは続けた。



「移民や難民は、過去にもHIVや感染症に関するデマの犠牲になってきた。我々はこうしたデマを、HIV感染者と不幸から逃れてきた移民の両方に対する、いわれなき差別として非難する」とゴールドは述べた。

MSFも声明を出し、「船上廃棄物の不法投棄を根拠にアクエリアス号の差し押さえを要求しているイタリアの司法当局を強く非難する」と述べた。「不当で根拠のない措置であり、海上における医療的・人道的救命活動を犯罪に貶めることだけを目的にしたものだ」と批判した。

MSFによれば、アクエリアス号の差し押さえやイタリアにある銀行口座の凍結が命じられる前から、カターニア検察当局による「船上の廃棄物処理に関する長期間の捜査」が行われていたという。捜査では、「特に食べ残しや、救助された移民の衣服、さらには同船内での医療活動から出る廃棄物が重点的に調査された」とのことだ。

MSFは、難民の捜索と救助に当たるアクエリアス号について、「廃棄物処理を含む入港中の作業は、常に標準的な手順に従っていた」と主張している。

犯罪にされた人道活動

「2015年にMSFが捜索救助活動を開始して以来、関係当局からこれらの手順が問題とされたことはなく、公衆衛生上危険だとの注意を受けたこともない」

MSFは、イタリア当局に「全面的に協力する意志はある」としながらも、「検察当局の解釈には疑問を持っている。非合法な廃棄物処理を行うことを目的とした犯罪活動に関わっていたとの告発には、断固として異議を唱える」と主張した。

MSFは、検察当局による「不正確あるいは誤解を招きかねない」告発に対して、不服申し立てを行うつもりだと明らかにした。MSFのイタリア事務局長、ガブリエレ・エミネンテはこう述べる。「我々は、これまで採用してきた作業手順に関して、事実を明らかにし、説明責任を果たす用意は十分にある。しかし、当医師団の人道的活動は正当かつ合法的なものであることは、いま一度強く訴えたい」

MSFによれば、ヨーロッパに渡るため危険な地中海横断を企てて亡くなった人の数は、この1年間だけでも2000人以上に上る。それでも生命の危険を冒して海を渡る移民は後を絶たない。MSFは、海上警備当局との協力で、これまでに8万人以上の人々を救助してきたが、その間「各国の法律および国際法には全面的に従ってきた」と述べている。

(翻訳:ガリレオ)


シャンダル・ダ・シルバ

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