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米中対立における中国の狡さの一考察

ニューズウィーク日本版 2018年11月24日 19時0分

世界第二の経済大国になり巨額のチャイナ・マネーで他国の歓心を買い、先進欧米企業を買収して技術を丸呑みしながら、自国の貧困層を救わず自国を発展途上国と位置付けてWTOの優遇策を受けている狡さが、まず一つある。

自国を途上国と主張する中国

中国の狡さに関しては枚挙にいとまがないが、トランプ大統領が指摘している狡さの一つとして、中国の途上国位置づけがある。WTOに加盟していても、途上国であるならば、貿易自由化の義務などを緩和あるいは免除する「特別かつ異なる待遇(Special and Differential Treatment)」(S&D)という恩恵がある。世界第二の経済大国になっておきながら、中国は一人当たりのGDPが低いとして、自国をあくまでも発展途上国だと主張し、保護主義的な通商政策を維持している。

中国は社会主義国家と自称する一方では、どの国よりも貧富の格差が激しい。

その国の貧富の格差を示すジニ係数は、中国当局の発表で0.467(2017年)。

ジニ係数とは所得不平等などの度合いを表す指標で、0から1までの数値で算出される。0.4以上なら社会的不安が起き、0.5以上なら暴動などが起き得るとされている。これまで中国の民間団体や大学教授などが調査した結果では0.6を超える場合もある。

11月22日のコラム<米中対立は「新冷戦」ではない>にも書いたように、中国は社会主義国家と自称しながら、内実、社会のどこにも社会主義的現象はなく、世界でも稀なほど貧富の格差が大きな国だ。社会主義国家ならどの国よりも「収入的に平等」でなければならないはずだが、どの国よりも不平等で、貧困層を救うことに国家予算を注いでいない。

それでいながら巨額のチャイナ・マネーを他の発展途上国に注ぎ込み、チャイナ・マネーによってその国の歓心を買い、世界制覇を成し遂げようとしているのだから、性質(たち)が悪い。

狡いのだ。

トランプが怒るのも当然で、中国にはトランプ大統領のやり方を保護主義などと非難する資格はないのである。

筆者が「新冷戦ではない」と主張したのも、その皮肉を込めたつもりだが、必ずしも十分に表現できなかったように思うので、改めてご説明する次第だ。

先進諸国の企業を丸呑み

トランプ大統領は、中国がアメリカ企業に投資して、その企業の技術を盗んだり、あるいは買収してしまって丸ごとアメリカ企業の技術を中国企業のものにしてしまっていることを非難しているが、その一つの例を見てみよう。

たとえば1988年に清華大学の校営企業として出発し、今では中国政府との混合所有制になっている「清華紫光集団」の場合。



2013年にナスダック市場に上場していた半導体メーカーである「スプレッドトラム」を買収しているが、このスプレッドトラムはアメリカに留学してシリコンバレーで半導体メーカーに就業したのちに帰国した元留学生たちによって作られた会社だ。

2015年にはドイツの半導体メーカー「キマンダ」の子会社を買収。

同じく2015年にはアメリカのヒューレット・パッカードの子会社「新華三公司」を買収して傘下に置く。

このようなことをくり返しながら、「清華紫光集団」は「NAND型フラッシュメモリ」などを手中に収めた。

たとえばこの「NAND型フラッシュメモリ」はデータの読み込み速度が速く記憶容量も抜群に大きいので、AI(人工知能)やビッグデータの処理(国民全員の監視体制構築など)に大きな力を発揮する。

結果、「清華紫光集団」は、2017年のファブレス半導体メーカー世界トップ10にランクインしている(詳細は来月発売予定の『「中国製造2025」の衝撃  習近平はいま何を目論んでいるのか』)。

米中対立には様々な要素があるが、やはり「中国製造2025」に集約され、その遂行に当たって、中国の「狡さ」が目立つのである。

その中国に強硬策を貫こうとするアメリカと、「協力を強化する」と手を差し伸べる日本の動向の間には、「新冷戦ではない」としてもなお、納得のいかない印象を拭うことはできない。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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