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アマゾン第2本社が示す、アメリカ「繁栄の分断」

ニューズウィーク日本版 2018年11月24日 15時0分

<ニューヨーク州と首都ワシントン近郊に決定――デジタル経済の持てる者と持たざる者の差はさらに大きくなる>

アメリカが中間選挙の熱気から冷めやらぬなか、アマゾン・ドットコムは第2本社をニューヨーク州ロングアイランドシティと首都ワシントン近郊のバージニア州アーリントンに置くと発表した。この決定と政治には関係があるのだろうか。答えは――大いにある。

アマゾンの本社は、民主党が圧倒的に強い西海岸ワシントン州の中でも特に民主党が強いシアトルにある。ニューヨークもワシントンも民主党の牙城だ。

第2本社の誘致にとても熱心だったインディアナ州インディアナポリスを、アマゾンが選ばなかったのはそのせいだろうか。インディアナポリスと言えば、共和党の地盤である州のとりでとも言える都市だ。

だが今回の決定には、支持政党より複雑な要素が働いている。政治や経済でのアメリカの分裂をリアルに映し出しているのだ。

アマゾンの使命は、消費者が欲しい高品質の商品を、より速く届けること。だから、常に素晴らしいアイデアが求められる。

経済を牽引する他の企業と同じく、アマゾンも才能ある人材を必要とする。それも同じ分野の才能ある仲間と知識を交換し、創造性を刺激し合い、新しいアイデアを試して選別しながら知識を積み重ねていける人材だ。

テクノロジーとは、集団が学習するプロセスとも言える。その学びは最終的に、個々の企業の能力をはるかに超える。こうした現象の大半は、アメリカ大陸の東西両岸で目立っている。

今やデジタル経済は西海岸のシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、東海岸のボストン、ニューヨーク、首都ワシントンといった「ハブ都市」で繁栄している。その他の地域は置き去りにされ、格差はさらに広がっている。

20世紀を通じて、アメリカの貧しい地域における賃金上昇の速度は、技術革新のおかげで豊かな地域よりも大きかった。ヘンリー・フォードが生み出したT型フォードは、中西部一帯で製造されていた。

取り残される2つの集団

今の状況は正反対だ。高学歴の賢い若者は、個々の能力が集まって大きな成果を上げられるハブに向かう。ここで生まれたアイデアは、新しいデザインや製品となって世界中に広まる。

ハブに流れ込む金は、高い報酬、快適な住環境、巨額な資産へとつながる。家賃や教育費は高騰しているが、収入・収益はそれを補って余りある。アマゾンがニューヨークとワシントンを選んだ理由はここにある。

ニューリッチ層にサービスを提供する人たちも増えている。弁護士や資産管理人、経営コンサルタント、料理人、ピラティスのインストラクターなどだ。

ブルッキングズ研究所によれば、10~17年に雇用の伸びの半数が見られたのは20の大都市圏で、現在はこれらの地域に人口の3分の1が集中している。



一方、内陸部は高齢化が進み、教養度が低下し、より貧しくなっている。ドナルド・トランプ大統領は政治の「分裂」を利用していると言われるが、経済的・文化的な分裂と言ったほうが分かりやすいかもしれない。未来のテクノロジーで繁栄する巨大都市群と、取り残された人々が暮らす過疎地帯の風景だ。

民主主義もゆがんできた。上院議員の定数は人口に関係なく各州2議席なので、人口約3950万人のカリフォルニア州と約58万人のワイオミング州の1票の差は驚くほど大きい。

もっともサンフランシスコやワシントンには急速に進む再開発と縁のない人々も多く暮らしており、その数は増えている。高層ビルやおしゃれなレストランの谷間に身を潜めるホームレス――階級格差を風刺したディケンズの小説の舞台さながらだ。

アメリカで中流層が姿を消しつつあるなか、取り残された2つのグループは、田舎に住む学歴のない白人のトランプ支持者と、都市部の貧しい人々だ。

この問題に取り組むのはアマゾンではない。アマゾン以外の私たち一人一人が向き合うべきものだ。

<本誌2018年11月27日号掲載>



※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。


ロバート・ライシュ(元米労働長官、カリフォルニア大学バークレー校教授)

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