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モサドが極秘倉庫を急襲、イラン核開発「衝撃の真実」が判明

ニューズウィーク日本版 2018年11月26日 18時0分

<イスラエル情報機関が盗んだ極秘文書から、15年前に核兵器を完成する寸前だったことが分かった>

イランが核合意から離脱すれば、数カ月で核爆弾を完成させられるかもしれない──。イランが作成した極秘資料を分析している専門家が、そんな警告を発している。

イスラエルの諜報機関モサドが、1999〜2003年のイランの核開発活動を示す資料を入手したのは今年1月。それによると、イランの核開発計画は、欧米の情報当局やIAEA(国際原子力機関)の予想よりもはるかに進んでいたようだ。このため、アメリカに続きイランも2015年の核合意から離脱すれば、イランはかなり短期間で核爆弾を完成させる恐れがあるという。

2015年に欧米など6カ国とイランが締結した核合意は、イランの原子力関連活動を大幅に制限する代わりに、対イラン制裁を緩和するというものだった。ところが、ドナルド・トランプ米大統領は、イランが合意内容に違反しているとして今年5月にアメリカの離脱を発表。この11月には制裁を再開した。

現在のイランが核爆弾を完成させるためには、十分な量の兵器級核燃料(高濃縮ウラン)を製造する必要がある。核合意から離脱して遠心分離機を再稼働すれば、それは7〜12カ月で可能だと、極秘文書の分析に当たっている科学国際安全保障研究所(ワシントン)の物理学者デービッド・オルブライトは語る。

2015年に核合意が結ばれる直前は、それがわずか2カ月で可能だったと考えられている。だが、核合意により、イランは核燃料の約97%を国外に運び出すとともに、ほとんどの遠心分離機の解体を義務付けられた。

このように核合意の最大の焦点は、イランから兵器級核燃料の製造能力を奪うことだったが、今回発見された極秘資料は、イランが自前で核兵器を製造する能力は、予想よりはるかに高かったことを明らかにした。これは驚きであると同時に、大きな懸念だと専門家は言う。

「(極秘資料には)イランの核開発計画について、信じられないほど大量の新情報が含まれている」と、オルブライトは語る。その分析から到達した大きな結論の1つは、核開発が「欧米の情報機関が考えていたよりもはるかに進んでいたこと」だ。

計10万ページを超える資料は、核合意に向けた交渉が始まる10年前の状況を示しているにすぎない。だがそれは、米政府とIAEAがイランの核開発能力を長年にわたり過小評価していたことを浮き彫りにしている。

「アメリカは(イランが)運搬可能な兵器を獲得するのは、少なくとも1年、ひょっとすると2年先という見解を示していた。それがもっとずっと短期間で可能だったことが分かった」と、オルブライトは語る。「当時、3カ月で可能だと主張していたフランスの見解のほうが、ずっと現実に近かったわけだ」

ロウハニが中心的役割

オルブライトによると、極秘資料の分析は今も続いている。「イスラエルもまだ全部目を通せていないと思う」と彼は言う。「毎日新しい発見がある」



モサドは1月末、イランの首都テヘランにある極秘倉庫を急襲してこの資料を盗み出した。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は4月末、大掛かりな会見を開き、「核開発計画が存在したことはないというイランの主張は、大嘘だったことが証明された」として、資料の概要を発表した。

これに対してイランのアッバス・アラグチ外務次官は、ネタニヤフの会見は「トランプに(核合意離脱を)促すための見世物だ。核合意を葬るためにトランプと共謀した可能性もある」と非難した。トランプが核合意からの離脱を発表したのは、その数日後のことだ。

オルブライトらが作成した極秘文書の分析報告書案は、イランのハッサン・ロウハニ大統領が、「90年代末〜2000年代初頭の核開発計画の中心的存在だったとしている。当時ロウハニは国家安全保障担当顧問だった。「彼が核開発を支持しなくなった証拠を発見するのは難しい」

ネタニヤフの会見は「イランの嘘」をアピールすることに重点を置いていたが、オルブライトらの分析は、イランが「2003年末までに、どうやって包括的な核開発のインフラを整備できたのか」に焦点を当てている。なにしろイランは、「IAEAが2015年末に指摘した全面的な技術力と設備」を、既に90年代末には開発していたというのだ。

同時に報告書案は、当時の計画(目標は10キロトン級の核弾頭5発の製造だった)が、現在どの程度残っているかは不明であることを指摘している。「当時の機器や物質の残りが今どこにあるかは、より緊急に答えを見つける必要がある問題だ」

核開発能力を温存か?

極秘資料からは、イランが2015年の核合意を遵守しているかどうかを知ることはできない。ただ、トランプがアメリカの離脱を発表するまでは、イラン政府は合意遵守に協力的だったというのが多くの専門家の見方だ。

オバマ政権で、イランの核合意遵守状況を報告する作業に携わった軍備管理不拡散センターのアレクサンドラ・ベル上級政策部長は、たとえ極秘資料の内容が正しくて、イラン政府が過去に嘘をついていたことが本当だったとしても、現在のイランの姿勢は現在の合意遵守状況によって評価するべきだと語る。

「メディアの報道に基づく監視は避けるべきだ」と、ベルは言う。「どんな合意でもそうだが、問題が生じた場合は、適切なルートを通じて処理するべきだ。この場合、核合意の当事国が対処するべきことだ」

トランプ政権も離脱前は、2度にわたりイランが核合意を遵守しているとの調査結果を発表している。IAEAの場合は15回だ。「核合意は機能している」と、ベルは語る。

それでも、20年前の核開発活動を示す極秘資料が発見されたことで、イランは核開発能力を温存しているのではないかという疑念が、一部の政府とIAEAの間で浮上したのは事実だ。核合意では、イランは兵器級核燃料の濃縮能力と再処理能力を基本的に放棄し、IAEAの厳格な査察を受けることが義務付けられている。



ワシントン中近東政策研究所テロ対策・情報プログラムのマシュー・レビット部長は、イランが核開発計画について「真実を語っていなかったという発見は重大だ」と言う。「問題は、核合意の時点で、イランの核開発はどこまで進んでいたのかだ。一部の情報機関関係者が、合意締結に必死だった理由が分かった。あのときイランは既に大きな能力を持っていたのだ」

では、これからどうなるのか。イラン政府は名目的には核合意を遵守しており、「(核獲得に向けた活動を)公然と行う可能性は非常に小さい」と、レビットは語る。「問題は、向こうの嘘に私たちが気付いたことを知った今、(イランが)どこまで隠密活動を続けるかだ」

From Foreign Policy Magazine

<2018年11月27日号掲載>



※11月27日号は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。


マイケル・ハーシュ

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