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国税庁が解くべき、税務に関する2つの誤解 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年12月4日 18時50分

<請求書は「自筆署名もしくは捺印した原本」で? 派遣社員の福利厚生は交際費になる? 現在も残る税務上の誤解>

国税庁といえば、現在は2019年10月から施行される「消費税の軽減税率」について、特に「食品販売か? 外食か?」という区分けについて、実務的に「回る」ようなガイドラインが出せるか注目がされているところだと思います。この点では、とにかく知恵を絞って納税者(消費者+小売店)の負荷が軽減され、混乱が回避されるような制度にしていかなくてはなりません。

ところで、税務と言えば、日本の税制には色々な誤解があるようです。2点取り上げてみたいと思います。

1つ目は、請求書の原本という問題です。業界によっても違うのですが、現在でも法人間、あるいは法人と個人の間、あるいは個人事業者間での請求書のやり取りについて、「自筆署名もしくは捺印をした原本」が必要というようなケースが残っています。

一方で、電子認証とか電子署名などがどんどん実用化されている一方で、今でも「原本に署名捺印して郵送」などということが必要とされているのは、おかしな話です。では、そのような請求書を要求する企業や個人は、よほど保守的であったり、昭和の頃から時間が止まっているかというと、そうではありません。

おそらくは、過去に税務調査を受けた際(それこそ昭和とか、平成初期などに)に、請求書の原本が提示できずに否認を受けたとか、そのような経験をたくさん見てきた税理士などが「念のために原本があったほうが安全」という指導をした結果として、大真面目にやっているのだと思います。

つまり業務上正当な発注をしているのに、来ている請求書が「署名捺印した原本ではない」場合には、税務署から「架空の費用ではないか?」と疑われるかもしれない、万が一そうなったら大変だという思い込みがあるわけです。

これは、2010年代も終わろうとしている現在では、誤解です。ですが、そうした認識が横行していることで、自社にも取引先に余計な業務を発生させ、全体として日本経済の効率を悪化させているとしたら、これは大きな損失だと思います。国税庁は、こうした誤解を解く努力をしてはどうかと思うのです。



2点目は、もっと深刻な問題です。いまでも多くの企業の中で、派遣社員に対する差別が横行しています。例えば「社員専用エレベーター」には派遣社員は乗ってはいけないなどという例があり、これは完全に差別以外の何物でもないわけです。

ですが、例えば社員食堂では派遣社員向けの価格が高いとか、派遣社員はウォーターサーバーの水は飲んではいけない、あるいは派遣社員は忘年会の会費が社員より高めに設定されているというようなケースには、税務上の誤解から来ている可能性があります。

つまり、社員向けの「忘年会補助」「社員食堂補助」「ウォータークーラー設置費」と言ったコストは、福利厚生費として全額が費用として認められる一方で、派遣社員というのは「外部の取引先」なので、福利厚生にカネをかけると、それは交際費となってしまう、そうした考え方が背景にある可能性です。

これも誤解だと思います。現在の派遣社員制度は、職場における差別を禁止しており、社員と派遣社員の双方に同時に平等な福利厚生制度を適用するように奨励しているからです。誤解のせいで、非人間的な差別が横行しているのであれば、そのような誤解は解かなければなりません。こうした問題も国税庁からしっかりアピールがされていけば、解決するのではないでしょうか?

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