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米中衝突の兆し、米「航行の自由」作戦に業を煮やす人民解放軍

ニューズウィーク日本版 2018年12月11日 16時10分

<南シナ海の領有権を主張する中国に対し、米軍は「航行の自由」作戦を繰り返してきた。なぜ何も対抗措置がとられないのかと、軍高官は強く批判した>

中国の軍高官が12月8日、アメリカの艦船による南シナ海航行を阻止するため、また台湾を取り戻すため、武力を行使せよと軍に促した。

中国海洋安全協力研究所の代表を務める戴旭大佐は8日、米海軍の艦船が南シナ海を繰り返し航行していることに対して何の対応も取られていないことを強く批判した。中国は南シナ海の大半の海域について領有権を主張している。与党・中国共産党の機関紙人民日報系のタブロイド紙、環球時報が主催した会議でこう語った戴旭は、中国は自国が領有権を主張する海域に侵入した船を攻撃すべきだと主張した。

環球時報によれば、戴旭はパネルディスカッションの中で「アメリカの艦船が再び中国の領海に侵入した場合には、2隻の軍艦を派遣すべきだ。1隻は侵入を阻止するため、もう1隻は攻撃するためだ」と語った。「我が国の領海の中でアメリカの軍艦が騒ぎを起こすのは許さない」

米海軍は「航行の自由」作戦を展開することで、南シナ海で中国の度を越えた領有権主張に対抗しようとしてきた。同作戦は1982年に採択された「国連海洋法条約」(中国は批准したがアメリカは批准していない)の中で列挙された「航行の自由」に基づくものだ。

海軍の改革に重点

中国はこれまで繰り返し、アメリカの軍艦が(中国政府が領有権を主張する自治島)の近くや、中国が軍事インフラの建設を始めたと報じられている複数の人工島の近くを航行していることに対して抗議してきた。

習近平国家主席の下、中国軍は大規模な改革を実行してきた。なかでも習が特に力を入れてきたのが海軍の近代化だ。中国はこの一年、南シナ海で大々的にその力を誇示し、必要とあれば台湾の武力統一も辞さないと宣言。さらにはその論調が冷戦を思い起こさせるとしたアメリカの批判も一蹴してきた。

11月下旬、アメリカは南シナ海の西沙群島(パラセル)周辺にミサイル巡洋艦「チャンセラーズビル」を派遣。さらに台湾海峡にミサイル駆逐艦の「ストックデール」およびヘンリー・J・カイザー級給油艦「ペコス」を派遣し、中国を威嚇した。

南シナ海を担当する人民解放軍南部戦域司令部の報道官は12月はじめのブリーフィングの中で、「チャンセラーズビル」に対して空と海からの対応を動員したと明らかにした。また報道によれば台湾海峡の監視も強化されている。



中国国防相の任国強報道官は当時、記者会見で次のように語っていた。「中国軍は厳戒態勢を維持し、国の主権と領土の保全を断固として守っていく決意だ」

アメリカはロシアと中国に対して軍事面でかなり優位な立場を維持しているものの、近年その格差は縮まってきている。マイク・ポンペオ米国務長官は12月10日に出演したラジオ番組の中で、中国が経済力でも人口力でも成長しつつあることと合わせて「中国はアメリカが中長期的に直面する最大の難題だ」と語った。

12月8日の会議の中で戴旭は南シナ海での緊張の高まりという観点から、中国と台湾の武力統一の問題や、アメリカとの貿易戦争についても言及。1949年に現在の与党・中国共産党に敗れたかつての中華民国の国民政府が逃れた地である台湾(このため中国は台湾を裏切者の省と見なしてきた)を取り戻すための武力行使を支持した。

中国人民解放軍の公式ホームページは戴旭の次の言葉を引用している。「なぜ南シナ海と台湾を戦場にするのか。中国・台湾間の緊張が高まれば、あまり深く考える必要はない。総合的な開発にとって経済が最も重要な側面であり、当然ながら我々はそれを守ることに重点を置くべきだが、再統一のチャンスが訪れたなら、そのチャンスをつかまない理由はない。緊張は再統一を加速させるだろう。そしてそれは、台湾解放の戦いのはじまりになるのだ」

戴旭はさらにこう述べている。「だから我々には、恐れるべきものはあまりない。備えをして待っていればいいのだ。戦略的なチャンスが到来したら、台湾を奪還することができるように」

(翻訳:森美歩)


トム・オコナー

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