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キューバ危機再び?ロシアが核爆撃機をベネズエラに派遣

ニューズウィーク日本版 2018年12月12日 19時0分

<トランプ政権の制裁に苦しむ両国が露骨な軍事協力、さらにイランが加わる動きも。米本土に届くミサイルが使用される可能性も>

ロシアがベネズエラに核攻撃可能な爆撃機を含む軍用機の一団を派遣したことを、アメリカの外交トップがツイッターで非難。ロシア側はみずからの行動を正当化している。

12月10日、ロシアの核搭載可能な爆撃機ツボレフ(Tu-160)2機、アントノフ(An-124)大型輸送機1機、イリューシン(Il-62)長距離旅客機1機と100人の軍関係者がベネズエラの首都カラカス郊外の国際空港に到着した。ベネズエラの経済はいまや破綻寸前で、アメリカの金融制裁によってさらに痛めつけられている。そんな状況下での今回の動きは、ロシアとベネズエラ両国の関係を強化するための試みだという。

マイク・ポンペオ米国務長官は11日、ツイッターでロシアの行動を非難した。「ロシア政府が送った爆撃機は、地球を半周してベネズエラに到着した。ロシアとベネズエラの国民は状況をありのままに見るべきだ。国民が苦しんでいる間に、腐敗した両政府は、公的資金を浪費し、人々の権利と自由を押しつぶしている」

ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ポンペオの反応を「完全に的外れ」と呼んだ、とモスクワ・タイムズ紙は報じた。

敵の敵は味方

アメリカは以前からロシアとベネズエラを外交上の敵とみなし、両国政府と国有企業に経済制裁を科している。ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領率いる社会主義政府は、政府の誤った経済運営に対する国民の抗議活動を抑圧していることで非難され、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2016年の米大統領選をはじめとする各国の選挙を妨害したと批判されている。

一方、ロシアとベネズエラはアメリカが両国政府の弱体化を図っていると非難し、結果的に両国の絆は強まった、と主張する。超インフレで昨年の消費者物価が83万3997%上昇したベネズエラは資金援助を求め、ロシアは西半球に影響力を拡大するチャンスを見出した。ロシアはさらに、アメリカのほぼ全面的な禁輸措置の対象になっているキューバとの同盟関係も強化している。

冷戦時代の再来を思わせるアメリカとロシアの対立のせいで、ヨーロッパではすでに緊張が高まり始めている。米ロ両国は欧州における軍事力を強化し、継続的な軍事演習を通じて力を誇示してきた。だが最近の事態の展開から、アメリカ本土に危機が迫るのではないかという恐怖も高まっている。



ドナルド・トランプ大統領は今年10月、1987年に旧ソ連との間で締結した中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄する方針を発表した。その後、アメリカが完全にINFから脱退するなら、軍事面での「バランスが回復」をはかるために、ロシアはキューバに軍事基地の建設を検討するかもしれない、という憶測が報じられた。

現在の危うい状況は、1962年のキューバ・ミサイル危機とよく似ている。当時はキューバに核ミサイルを運び込もうとしたソ連の艦隊に対して米海軍が海上封鎖を行い、核戦争の一歩手前までいった。このときのミサイルは現在のINF条約のもとでは禁止されるだろう。いずれも射程が条約で禁止されている500~5500キロの範囲にあり、アメリカ本土全体を攻撃することができるからだ。だがアメリカがINFから離脱すれば、そうしたミサイルをキューバやベネズエラに配備することができる。

ロシアの戦闘機がベネズエラに送られたことに関して、共和党のマルコ・ルビオ上院議員は11日にツイッターに投稿、ロシア軍は「ベネズエラから西半球に向けて軍事力を誇示するために、明日にもメキシコ湾とカリブ海のパトロールを開始するだろう」と予言した。ルビオはこれまでもキューバ、ニカラグア、ベネズエラその他中南米の左派政権を頻繁に非難している。

イラン、北朝鮮も仲間に

一方、ベネズエラのマドゥロは、反政府クーデターや、8月に起きた爆薬を積んだ無人機(ドローン)による暗殺未遂事件はアメリカの仕業だと非難している。そして、長年アメリカに敵対してきた国々はベネズエラとの関係強化をはかっている。

北朝鮮の最高人民会議常任委員会の金永南(キム・ヨンナム)委員長は11月末にマドゥロのもとを訪れ、両国の連帯をアピールした。トランプと北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、これまでの敵対関係を解消し、和平交渉を受け入れたが、北朝鮮は依然としてアメリカの最も厳しい経済措置の対象となっている。

アメリカの制裁措置で打撃を受けたイランもロシアに続いて、ベネズエラに軍事資産を送るかもしれない。2015年のイランとの核合意から離脱して以来、トランプはイランの指導者がテロを支援し、ミサイル技術を海外に輸出していると非難、制裁を科しているのだが、それが敵同士を近づける結果を生んでいる面もある。

イランとベネズエラは共にアメリカの制裁に端を発する経済的苦境に直面し、そのなかで友好関係を維持している。イラン海軍の副司令官、トウラジ・ハッサニ・モクアダン中将は最近、ベネズエラを訪問するために最新型のサハンド駆逐艦や他の軍艦を送る可能性があると述べた。

(翻訳:栗原紀子)


トム・オコーナー

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