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トランプを恐れぬ女性、ニッキー・ヘイリーの野心とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2018年12月13日 16時15分

<国連大使の「円満辞任」を強調するニッキー・ヘイリーだが、ワシントンでは次期大統領選に向けてさまざまな憶測が飛んでいる>

ニッキー・ヘイリー氏と言えば、この年末で国連大使を辞任することが決まっており、その退任日が近づいてきたことから、公的な場などでの発言が注目されています。特に12月12日に放映されたNBCテレビの独占インタビューでは、クレイグ・メルヴィンというアフリカ系キャスターの鋭い質問に対して、実に見事な切り返しを見せていました。

まず、メルヴィンが辞任の理由を尋ねると「自分の任務を全て完了したからです」とスパッと答えて、全く付け入る隙を与えませんでした。

そこでメルヴィンは、「大統領は側近の辞任に対して怒ったり、悪口を言ったりすることがありますが、あなたも悪く言われることを恐れてはいませんか?」と尋ねたのですが、ヘイリー大使は「それは絶対にありません」と即答していました。「私は、大統領とは全てを率直に語り合ったし、自分の仕事は全て完遂したので批判される可能性はありません」と胸を張ったのです。

では「在任中に成し遂げた最大の成果は?」と問われると、これまた間髪を入れずに「国連大使として、対北朝鮮の制裁に対して国際社会が結束して対処させることに成功したこと」と述べていました。そして「その結果として相手を交渉の場に引っ張り出すことができたのです」としていました。これも微妙な発言で、トランプの対北朝鮮外交を評価しているようで、その一方で国際社会の結束を重視するということは、トランプの自己流外交を批判しているようにも取れるわけです。

さらに「大統領の予測不能なレトリックにどう対応したんですか?」という質問に対しては、「確かに大統領からの電話があると、その指示のほとんどは予想外の内容でした。しかし、どんな時も私は率直に自分の見解を述べ、お互いに納得のいくまで意見交換をして結論にいたっていたので、任務を完遂できたのです」という完璧な受け答えをしていました。

とにかく「私は大統領に批判される可能性はない」と胸を張りつつ、「任務を完了した」からホワイトハウスを後にするというのは、何とも大胆不敵と言わざるを得ません。

具体的な問題、例えば「サウジによるカショギ記者殺害事件」に関しては「サウジは重要なパートナーであり、特にイランとのバランスを確保するには絶対に必要な同盟」だとしながらも「しかしこのような事件(カショギ殺害)があった場合には、一歩下がる必要があります」「少なくとも真相の解明と再発防止を保証させなくては外交ではありません」と、取りようによってはトランプ批判とも聞こえる正論を主張して、全く動揺を見せないのです。

大胆不敵といえば、10月の時点である会合でスピーチを行ったヘイリー大使は、「私がインド系アメリカ人だと知ったトランプ大統領は、『君はウォーレン議員とは同じ部族なの?』と聞いて来たんですよ」と述べて、場内の爆笑を誘っていました。



ヘイリー大使といえば、サウスカロライナの知事になった2010年以来、インド系の共和党政治家として有名です。また、ウォーレン議員については「インディアン=アメリカ原住民の末裔」ということを大統領自身が「どうせウソだからDNAテストしたら」などと話題にしていたのでした。(実際はテストして本当だと証明されています)ですから、「同じ部族?」と聞いて来たということは、大統領は「インド系を意味する『インディアン』」と、「アメリカ原住民を意味する『インディアン』」の区別がついていないという指摘をしているわけです。

こうしたジョークを公的な場で言うというのは、他の人であれば、それこそ大統領の「スーパー激怒」を買うかもしれないわけですが、ヘイリー大使は「自分は大丈夫」としているのです。

そんなわけで、ドナルド・トランプという「気難しいボス」に2年間仕えて、胸を張って辞めていくヘイリー大使は、アメリカ政界の中で非常に特殊な立ち位置を確保したのは間違いありません。

本人は「知事になったのも、国連大使になったのも周囲が立ててくれたから」と野心を否定(?)していますが、現在ワシントンではこのニッキー・ヘイリーという特異な才能に対して、様々な待望論が語られているのは間違いありません。

1つは、共和党主流派と民主党が結託して、大統領弾劾に持っていった場合に「昇任するペンス氏の副大統領(または国務長官狙いという説も)」というポジションです。中には、今回の辞任劇はそのシナリオに沿ったものだという解説も語られています。

2つ目はもっと驚くような話で、2020年に「トランプ=ペンス」の組み合わせでは民主党に対抗できないのでペンス氏が辞任して、2020年のトランプのパートナーには、ヘイリー氏を立てるというストーリーです。

3つ目は、2024年に堂々と予備選に勝って共和党の大統領候補を狙うという作戦を描いているという説です。

本人の心の中にあるのは、この3つのどれかは分かりません。ですが、今回の鮮やかな辞め方だけを見ても、この人の類いまれな政治的な才能は明らかであり、今後も注目されることは間違いないでしょう。

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