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俳優ロブ・ロウが母の介護で学んだこと

ニューズウィーク日本版 2018年12月19日 17時20分

<家族の病気に心を痛め、仕事との両立に悩んだ経験と、介護に直面している人々へのエールをあの俳優が語る>

年老いた家族らの介護に当たるアメリカ人は4350万人に上るとされる。彼らは時間や金、時にはキャリアや健康をも犠牲にし、相応の訓練を受けたプロの介護士に近い仕事を無報酬でやっている。ベビーブーム世代の高齢化を背景にこうした介護者の重要性が高まるなか、アメリカでは行政レベルでも民間レベルでも彼らを支援しようとする動きが盛んになっている。

『セント・エルモス・ファイアー』などの作品で知られる俳優ロブ・ロウも、家族の介護を経験した1人。いま介護のただ中にいる人々を応援するために、自身の体験を語った。

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私が初めて無報酬の介護の問題を経験したのはかなり若いときだった。父のチャールズは50歳でリンパ腫と診断された。当時私は26歳だった。幸い、父は金銭的に成功していて、私にとっては継母に当たる愛情深い妻もいた。厳しい状況だったが、彼女はそばにいて父を支え、父は何とか病を乗り越えた。

だが2年後、2人は離婚した。

病気の父を介護していた際に継母が抱えたストレスが関係しているに違いないと、私はずっと思っている。

多忙な時期に母が倒れた

30歳代後半になると、今度は実母がステージ4の乳癌と診断された。無数の人々が今まさに経験している介護の最前線に私も引っ張り出されたのだ。母には夫も特定のパートナーもいなかったから、最初の診断以降、複数の病院を渡り歩いた母のサポートや治療法の選択、通院への付き添い、最終的にはホスピスへの入院、そしてみとりまでが、私たち兄弟3人の肩に懸かってきた。間違いなくとても困難なことだった。

当時、私は『弁護士ジャック・ターナー』というドラマの主役兼プロデューサーを務めていた。もし私が休みを取れば、番組は打ち切りになってしまう。私の肩には150人のスタッフの生活が懸かっていたから、介護と仕事を両立する方法を見つけなければならなかった。私は時間をきっかり2つに分け、番組を打ち切りから救うための努力と母の命を救うための努力にそれぞれ費やした。

仕事を辞めなければならないのと仕事を辞めることができないのと、どちらのストレスが大きいかは分からない。幸い、私にはバトンを渡せる弟がいた。また、そこそこの収入のある家庭だったから、必要に応じて人を頼むこともできた。それができない人々にとって、介護がどれほど大変か想像もつかない。

献身的に家族の介護をする人は、ちょっとした、でもさまざまな形で患者の状況を大きく変えるカギを握っている。いい結果をもたらすチャンスを劇的に増やす力を持っているのだ。



例えば深刻な病を抱える患者にとって、診察の際に自分以外の第三者が同席してくれることは非常に重要だ。02年に癌の新しい化学療法薬についての啓発運動を手伝ったとき、私は驚くような統計を目にした。医師から伝えられた情報のうち、患者が覚えていられるのはたったの10%にすぎないというものだ。たった10%だ!

それに、医療費を保険でカバーしてもらうには電話のやりとりや書類の作成に加え、保険会社や医師とも話をしなければならない。自分が病気のときに、これを自力でやらなければならなくなったらどうなることかと考えた記憶がある。(病気なのに)朝からベッドを出られるはずがない。

今回の話のテーマである、介護の現場で重要な役割を果たしている友人や家族たちは無報酬だ。病気を――たぶん死に至る病気を――抱えた家族の姿を見るのはストレスになるし、気持ちが沈むものだ。経済的・時間的な負担も加わり、介護者が背負う重荷は非常に大きい。

完璧にこなす必要はない

そんな人たちに私が言いたいのは、自分のことを後回しにしないでということだ。飛行機に乗ったときに(機内安全の説明をする)客室乗務員から言われるのは、「他の人を手伝う前に自分の酸素マスクをきちんと装着してください」ということだ。なぜか。自分自身の面倒を見ずして他の人の面倒を見ることはできないからだ。

(介護は)必ずしも進んで担いたいものではないが、定まった方法論は存在しない。完璧にこなす必要はない。全ての正しい答えを知っている必要もない。間違いを犯すこともあるだろうが、それでいいのだ。ただ、介護は人生で最も報われる行為の1つとなる可能性があることを知っておいてほしい。

母の介護は恐ろしい、信じられないほどのストレスと痛みを伴うものだった。その一方で、他の状況では決して実現しなかったかもしれない形で母と一緒にいられた時間でもあった。03年に母が亡くなったとき、私は十分に母と対話ができた、十分な時間、母と一緒に過ごせたと感じた。友達の中には、両親の(急な)死を経験して、納得いかない思いにとらわれた人もいる。どれほど愛しているか伝えたかったのに、あんなことやこんなこともしてあげたかったのに、と。

介護者だけが手にすることのできる贈り物、それは病気の家族のそばにいられるということだ。思い残すことなくいろいろなことをやったり、話したりすることができる。

だから今この時を大切にしよう。将来、必ず人生のこの章を満足感とともに振り返ることができるはずだから。その一方で、必要なときはためらわずに助けを求めてほしい。





<本誌2018年12月18日号掲載>



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ロブ・ロウ(俳優)

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