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「関税マン」トランプが招く貧乏なアメリカ

ニューズウィーク日本版 2018年12月22日 13時45分

<トランプの対中制裁でアメリカ人が逆進税を払う羽目に――ホリデーシーズンを控え米経済の冷え込みが心配だ>

「私は関税マンだ」――。トランプ米大統領は12月4日、ツイッターでこう宣言した。「わが国の偉大な富を奪おうとする者には、相応の代償を支払わせる......目下われわれは関税の形で何十億ドルも徴収している。アメリカを再び偉大な国にする」

残念ながら、大統領、あなたは勘違いしている。関税を支払うのはアメリカの消費者だ。

あなたが既に10%の追加関税を課した2000億ドル相当の中国製品のうち、およそ半数の3000品目はほぼ完全に中国からの輸入に頼っている。つまり、今年のホリデーシーズンにはアメリカの消費者は割高な買い物を強いられるわけだ。

中国を懲らしめるための関税は、アメリカの消費者を苦しめる「税金」となる。あなたはアメリカを偉大にするどころか、困窮させているのだ。

しかも、この税金は逆進税だ。所得に占める割合で見ると、富裕層に比べ中間層と低所得層の負担が大きくなる。

あなたが実施した税制改革のおかげで、大企業と富裕層は年額ざっと1500億ドル規模の減税措置を享受している。それにより企業の設備投資が活発化し、アメリカに新たな雇用が生まれると、あなたは主張したが、そうはならなかった。

大企業は減税分の大半を自社株買いに充てた。おかげで株価は急上昇したが、当然ながら浮揚効果は一時的だった。12月4日以降、市場は米中貿易摩擦の行方を読み切れず、米株価は乱高下している。状況はこれからさらに悪化しかねない。米経済全体が減速しているからだ。

対中制裁関税のブーメラン効果でアメリカは景気後退に突入する危険性がある。世界の他の主要国の経済も減速している。

あなたの経済顧問チームは対中交渉を有利に進める手段として制裁関税を正当化しようとしている。だが12月初めの米中首脳会談の成果は早くも帳消しになりつつある。いや、正確に言えば、成果などなかった。あなたは中国にアメリカの農産物や天然ガスを大量に売りつけたと自慢するが、中国側はそんな約束を認めていない。「素晴らしい取引だ」との自画自賛は毎度おなじみ。北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)との会談後にも聞かされた覚えがある。

一部の顧問に言わせると、あなたの真の目的は中国がアメリカの技術を盗むのを阻止することだそうな。華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)のCFOがカナダで逮捕されたのも、それと関係がありそうだ。

米企業の技術を守るために、あなたがなぜそこまで躍起になるか理解に苦しむ。企業の技術は国家のものではない。企業と株主のもの、企業が開発し世界中のユーザーに提供するものだ。

安全保障上の懸念から?

大半の米企業は中国企業と合弁契約を結び、進んで技術を提供している。そうすれば巨大な中国市場に参入できるからだ。

うんと好意的に解釈すれば、あなたは国家安全保障の観点からアメリカを守るスーパーマンならぬ「関税マン」になっているのかもしれない。



ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は重要なのは「力の問題」であり、中国はアメリカの知的財産を盗んで「経済力ひいては軍事力を大幅に」強化していると警告している。あなたにもそう助言したはずだ。

安全保障上の懸念から中国に制裁関税を課しているのなら、もっと有効な手がある。大統領には国防上重要な技術の流出を防ぐため外国企業による米企業の買収を阻止する権限がある。米企業と中国企業との合弁契約も、安全保障上の理由で阻止できるはずだ。米企業に国防上重要な技術を守るよう、罰則付きで義務付けることも可能だろう。

一部の米企業は中国市場に参入できなくなり、多額の利益を失うことになるが、それは大した問題ではない。大統領の役目は企業の利益を守ることではなく、アメリカを守ることにある。

アメリカの消費者に重い逆進税を課し、世界的な景気後退を招くよりはずっとましだ。

<本誌2018年12月25日号掲載>



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ロバート・ライシュ(カリフォルニア大学バークレー校教授、元米労働長官)

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