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『Nature』が選ぶ「今年の10人」に、「はやぶさ2」の吉川真准教授

ニューズウィーク日本版 2018年12月22日 16時40分

英国の科学誌『Nature』は2018年12月18日、その年の科学界を代表する10人を選ぶ「Nature's 10」のひとりに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の吉川真(よしかわ・まこと)准教授を選んだと発表した(参考)。

吉川さんは長年、小惑星などの軌道の研究や、小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」のミッションに従事。そうした長年の"小惑星ハンター(Asteroid hunter)"としての功績が認められた。

"小惑星ハンター(Asteroid hunter)" 吉川真さん

吉川真さんは、1962年生まれの56歳。通信総合研究所(現在の情報通信研究機構)で、人工衛星やスペースデブリの軌道などの研究をしたのち、旧宇宙科学研究所(現在のJAXA宇宙科学研究所)に移った。

そして、人工衛星や惑星探査機の軌道決定に関する研究に従事し、これまで火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」などのミッションに関わってきた。

また、太陽系の小惑星や彗星といった小天体の軌道が、他の惑星の重力などの影響でどのように変化するかといった、「軌道進化」と呼ばれる分野の研究にも従事。その実績から、「はやぶさ」ではサイエンス側の取りまとめ役を担ったほか、現在小惑星「リュウグウ」を探査している「はやぶさ2」では、計画立ち上げ時のチーム・リーダー、のちにプロジェクト・マネジャーも務めた。

いまでこそ「はやぶさ2」は宇宙で大活躍しているが、立ち上げ当初は予算がつかなかったり、他国と共同で進める案も流れたりと、さまざまな困難に見舞われた。吉川さんはその間、「はやぶさ2」と研究者らを導き続け、そして2012年に開発にこぎつけた。

その後、開発の始まりとともにプロジェクト・マネジャーを後任に譲り、科学側と工学側の間や、海外から参加するメンバーなどとの橋渡しや、国内外に向けた広報などを担うミッション・マネジャーに就任し、現在に至る。

「いままで一緒に働いたことがある科学者の中で、最も親切な人です」

Natureは、今年のNature's 10のひとりに吉川さんを選んだ理由について、"小惑星ハンター(Asteroid hunter)"というニックネームを添えたうえで、「はやぶさ2」をはじめとする、小惑星の研究における実績を挙げている。



吉川さんは受賞後のコメントにおいて、「(受賞は)『はやぶさ2』の成果があったためだと思います。私が選ばれたというよりは、『はやぶさ2』プロジェクトに注目してもらえたということなのだと思います」と語り、「はやぶさ2」プロジェクトのメンバー全員をねぎらっている。

また、「個人的には修士課程のときから小惑星をテーマに選んで、その後も、天体の地球衝突問題であるプラネタリー・ディフェンス(スペース・ガード)の活動をずっと行ってきたこと(中略)が、評価されたのかもしれません」と振り返る。

そのうえで、「『はやぶさ2』ミッションそのものも大きな成果を挙げましたが、今回注目された理由のひとつには、英語での情報公開を積極的に進めたこともあるかと思います。これは、まさに、私自身がかなり力を注いできたことです。また、海外のチームメンバーとよい関係を保ちながらミッションを行ってきたということも評価されたことかもしれません」と、ミッション・マネジャーとしての自身の役割が認められたのではという考えを挙げた。

それを裏付けるようにNatureは、「はやぶさ2」に搭載された小型着陸機「MASCOT」に関わる、フランス宇宙局のAurelie Moussiさんによる以下のコメントを紹介している。

「吉川さんは利己的な考えをもたず、多くの研究所が関わる共同ミッションを適切に率いる、類まれな能力をもった方です。これはミッションを成功させるための鍵となるものです。いままで一緒に働いたことがある科学者の中で、最も親切な人です」。

リュウグウにタッチダウンする「はやぶさ2」の想像図 (C) JAXA

「はやぶさ2」は来年に向けて力をたくわえる

一方、「はやぶさ2」は小惑星「リュウグウ」到着後、これまでに上空からの地形や地質などの観測や、小型探査機の「ミネルヴァII-1(MINERVA-II-1)」、「MASCOT」のリュウグウへの投下、運用などをこなしたのち、「はやぶさ2」のリュウグウへのタッチダウン(着陸)と、その際に石や砂などのサンプルを回収するためのリハーサルを実施。また、サンプル回収を担当するチームは、リハーサルで得られた成果をもとに、本番に向けた最後の準備を実施した。

そして現在は、地球から見たときに「はやぶさ2」が太陽とほぼ重なる位置に入ってしまう「合(ごう)」と呼ばれる状態にあり、太陽の影響で「はやぶさ2」との通信ができない。そのため「はやぶさ2」を安全な状態に保てるよう、軌道などを工夫した「合運用」を行っている。

合運用は12月22日まで続く予定で、2019年1月1日までかけて、探査活動の再開に向けて探査機の体勢を立て直す、軌道制御が行われる。

現在のところ、「はやぶさ2」のリュウグウへのタッチダウンは、2019年1月以降に予定されている。タッチダウンは複数回行われる予定で、そのうち1回は、リュウグウに弾丸を撃ち込んで内部の物質を露出させ、それを回収するというダイナミックな挑戦も計画されている。

吉川さんは「はやぶさ2」の今後について「リュウグウは「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワよりも、はるかにタッチダウンが難しい天体です。是非ともタッチダウンを成功させてリュウグウ表面からサンプルを採取し、探査機を地球に無事に帰還させたいと思います。この目標に向けて「はやぶさ2」プロジェクト一同、一丸となってミッションを遂行できるよう進めていきたいと思っています」と語った。

リュウグウ着陸に向けたリハーサルを行う「はやぶさ2」から撮影された画像 (C) JAXA


鳥嶋真也

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