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なぜ今?トランプ政権が北朝鮮に対する人道支援制限を緩和

ニューズウィーク日本版 2019年1月15日 18時0分

<アメリカを非難する国連や支援団体からの圧力に配慮したのか、それともこれで金正恩から譲歩が引き出せると思ったのか?>

外交筋および複数の支援団体によると、米国務省は、北朝鮮に対する人道支援に課していた制限のうち最も厳しい一部を緩和することを決めた。これにより、人道支援に携わるアメリカ人の渡航制限が解除されるほか、これまで禁止されてきた人道支援物資も一部解禁になる。

この決断は1月9日に、アメリカの北朝鮮担当特別代表スティーブン・ビーガンによって支援機関に伝えられた。国連と支援機関はこの数カ月、北朝鮮に対するアメリカの経済制裁が、コレラなどの感染症から人命を救う活動さえ危うくしている、と米政府を批判してきた。

今回の動きは、トランプ政権が北朝鮮に対する「最大限の圧力」を数カ月ぶりに緩和する大幅な進歩だ。しかし、これが北朝鮮との非核化交渉を進展させるための善意の政策なのか、あるいは人命をも脅かすアメリカの制裁に対して強まる国際的な圧力に配慮したものなのか、定かではない。

米国務長官マイク・ポンペオは2018年夏、米朝交渉が一向に進まないことに業を煮やし、北朝鮮への支援物資の量を大幅に制限した。その結果、手術機器や児童養護施設向けのステンレス製牛乳容器、結核やマラリア治療のための援助物資などの輸出は、米当局の手で日常的に遅らせられていた。

だがこうしたやり方は人道支援機関からの反発を招き、アメリカは国連でも孤立した。

金正恩は軟化するか?

ユニセフ(国連児童基金)のオマール・アブディ事務局次長は、安保理制裁委員会に宛てた12月10日付けの非公開書簡で次のように抗議した。アメリカが救急車や発電機などの医療支援物資や救援物資を留め置いているために、病気と闘うユニセフの活動に支障が生じている。「必要な物資が至急発送されなければ、ユニセフが北朝鮮で行っているプログラムが危機に直面しかねない」と。

ブルッキングス研究所の北朝鮮専門家で元CIAアナリストのジュン・パクは、制裁緩和を人道的な見地から評価するが、これで非核化に関する交渉が進展する可能性は低いという。「人道支援活動を再開するのは正しい」と、パクは言う。「しかし、この程度で金正恩(朝鮮労働党委員長)が『ポンペオ長官と話し合おう』というかとなると、とても怪しい」

トランプ政権が北朝鮮に対する圧力を一段と強化したのは、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したのを受けて、国連安保理が2017年12月に追加制裁決議を採択したときだ。北朝鮮に圧力をかけて、核兵器開発を撤廃するための交渉に同国を引き込むためのこの制裁は、北朝鮮のエネルギーならびに輸出部門を対象にしていたが、人道支援物資を届けることに関しては、安保理制裁委員会の承認があれば、制裁から免除されていた。



その後、ドナルド・トランプ大統領は金正恩と2018年6月にシンガポールで首脳会議を行ったものの、それ以降、北朝鮮との非核化交渉は失速している。北朝鮮がミサイル開発を継続し、トランプ政権幹部からの交渉の申し入れをはぐらかしてばかりいるからだ。たとえば、北朝鮮高官はもう何カ月にもわたり、ビーガン(北朝鮮担当特別代表)と会談することを求める米国務省の要請を拒絶している。米国務省は2018年11月、ニューヨークで開催が予定されていたポンペオと北朝鮮高官との会談をキャンセルすると発表した。

しかしジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は12月、「北朝鮮側はこれまで約束を果たしていない」としながらも、交渉再開に向けてトランプと金の2度目の首脳会談が1月か2月に開催される可能性があると述べた。「大統領は2度目の会談は有益なものになるだろう」と、ボルトンは言う。

12月、ビーガンは、米政府が人道支援に対する制限を緩和すると発表した。同じ週の会合でビーガンは、北朝鮮への特別渡航許可を再申請するよう人道支援団体に促した。人道支援物資の輸送も間もなく可能になるだろう、と。

「ポンペオ国務長官は、北朝鮮の最も貧しい人々への人道支援を支持している。このことは、アメリカの人道支援団体が北朝鮮の草の根の人々との間に築いてきた信頼関係に対する米政府の肯定のサインになる」

もっとも、人道支援物資の輸送解禁の手続きは、米政府の一部閉鎖が終わるまで始められない。人道物資の特定は多くの人手がかかる上、米政府担当者の専門知識も必要になるからだ。米財務省が昨年行った金融取引に対する制裁強化も、人道支援を難しくしている原因の一つだ。

それにも関わらず、なぜこの時期に人道支援の緩和だったのか。遠くない将来にわかるかもしれない。

(翻訳:ガリレオ)

From Foreign Policy Magazine

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